これは私たちの物語だーー『82年生まれ、キム・ジヨン』で描かれる「絶望」と「希望」

『キム・ジヨン』で描かれる絶望と希望

 本書を巡って韓国で起こったアイドルの炎上騒動はじめ、韓国における男性による女性嫌悪、逆差別意識といった感情は、男性だけに兵役が義務付けられているという軍隊問題が大きく関係していると伊藤順子氏が本書巻末解説において言及しているように、韓国ならではのものであるとも言えるだろう。とはいえ、似たような事案が日本に全くないかと言えば嘘になる。

 決して悪人ではない、むしろいい人たちの、無自覚な言葉の暴力や、想像力の欠如によって、自分自身をちょっとずつすり減らしながら、生きづらい社会の中を懸命に生きてきたキム・ジヨンは、ちょっとずつおかしくなっていく。キム・ジヨンの物語は、今を生きる全世界の「私たち」の物語だ。

 だからといって、この本が男性のための女性を学ぶ教科書であり、「これを読んで女性の辛さを学べ、理解しろ」と頭ごなしに言うのは少しおかしい。「理解ある夫」「理解ある妻」という言葉で互いを語る時点で、男女間には大きな距離がある。なぜなら「理解ある夫」であるジヨンの夫・デヒョンの言動に、ジヨンは心をすり減らし続けるのだから。女性が男性を呪い、男性が女性を呪う前に、「共に生きる」方法を見つけなければならない。そのためには、社会含めて、私たち一人一人が変わっていかなければならないのだ。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■書籍情報
『82年生まれ、キム・ジヨン』
著者:チョ・ナムジュ
翻訳:斎藤真理子
出版社:筑摩書房
特設サイト(試し読みあり)
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