『ハイキュー!!』木兎と赤葦、長所を引き立て合う幸せな関係を考察
高校生たちの手に汗握るバレーボールの試合展開だけではなく、それぞれの友情やライバル関係にも胸が熱くなる『ハイキュー!!』。
先輩と後輩。一言で言ってもさまざまな形がある。及川と影山のように年齢関係なく好敵手という関係もあれば、黒尾と研磨のように友人関係もある。出会い方、環境、さまざまな要因が関係性を作っていくが、木兎と赤葦はどうだろう。
「ひと目惚れ」と言える出会い
バレーは好きでも嫌いでもない。冷静でパッと見た印象は無気力にも見えるが言われたことは一生懸命やる。手は抜かない。その結果、バレーは高校推薦がもらえるぐらいの実力はつけた。それが赤葦京治だ。
そんな赤葦を本気にさせたのが木兎のプレーだった。木兎がイキイキとプレーをする姿を見て「スター」だと感じ、スターがいる梟谷学園への進学を決めた。ひとりの選手が、赤葦の冷静な心を熱くさせたのだ。
とにかく練習がしたい木兎に付き合わされる赤葦に、チームメイトたちは「逃げたくなったら言え」と苦笑いを浮かべる(そう言いながら誰も木兎を疎んじていないのが梟谷の強さでもある)。しかし、赤葦は真顔で言う。
「スター選手と練習するの楽しいです」
スターはどこにいても注目を集める。木兎が注目を集めるのはプレーだけではなく、そのテンションの高さや、パフォーマンス、発言全て。どんな場所でも目をひく、スターとしての要素が詰まっている選手。そして、何にだって全力。練習だって本気だ。ーー『ハイキュー!!』を読むと何かに全力で向き合える者だけが夢を掴むことができるのだと思わされる。
木兎の本気は周りにも伝染する。赤葦も木兎がいたから、バレーに本気になった。赤葦が勝利の喜びを知り、負けの悔しさを知ったのは、木兎がいたからに他ならない。
梟谷の要は木兎ではなく赤葦だった
木兎の調子を崩せば勝てる。対梟谷戦において、そう戦略を考えるチームが多かった。しかし、木兎は気分のアップダウンが激しい。調子が上がらないことだって日常茶飯事だ。だからチームメイトは木兎の不調に慣れている。何より赤葦は木兎の調子に敏感で、下降気味だと分かればすぐに対応する。もちろん、梟谷はほかの3年生も実力者揃いなので、支障はない。
木兎は強い。だからこそ、木兎が不調だと相手チームですら戸惑う。しかも木兎の調子が落ちてもチーム全体の調子は下がらないことに動揺するのだ。
そんな梟谷が崩れたのは春高の準々決勝。木兎と一緒に赤葦が狙われた時だった。自分のセットアップで決められないスパイカーに対して憤るセッターもいれば、自分が不甲斐ないせいでスパイカーが決められなかったと責任を感じるセッターもいる。赤葦は後者だ。これは謙虚なようでいて「烏滸がましい」。
宮侑は「俺のセットアップで打てないやつはただのポンコツ」と言ったが、これは信頼があったからだ……「俺はお前を信頼してこのボールを上げている」。一方、赤葦はスパイクが決まっているときは「木兎のおかげ」だと思っていたのに、自分のセットアップで決まらなくなると「自分がどうにかしなければ」と焦ってしまったのだ。
「負けてはいけない」と追い詰められて初めて赤葦は気が付く。無意識のうちに、負けていい試合と負けてはいけない試合を分けていた。
木兎はそんな赤葦にこう言葉をかける。
「今まで負けてもいい戦いはあった?」
そして続ける。
「(全部勝つのは)“ムリ”ではなく“ムズカシイ”である!!」
そう言いながら、木兎なら「全部勝つ」をやり遂げてしまうかもしれない。そう思わせる。赤葦は木兎がスターだと”思って”いたが、身を以てスターだと“知った”のはこの瞬間ではなかっただろうか。