米中で勢い増すオーディオブック、日本でも浸透なるか? コロナ禍で顕在化したニーズ

オーディオブック普及なるか?

どんな本が読まれているのか

 audiobook.jpとaudibleの人気ランキングを確認してみると、ユーザーの動向も見えてくる。上位を占めているのはビジネス書であり、前述の通り、学習手段の1つしてオーディオブックを利用する傾向が多いようだ。例えば、『Think smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』をはじめとする「Thinkシリーズ」や、『自分を操り、不安をなくす究極のマインドフルネス』、『嫌われる勇気』、『父が娘に語る美しく、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』、『ファクトフルネス』などは、まさにコロナ不安の中で指針となる考え方を学ぶために求められているのだろう。

 実際、オーディオブックには、学習教材として次のようなメリットがある。

・隙間時間で読書が可能

 スマートフォンで漫画を読む文化はここ数年、集英社の「ジャンプ+」などのアプリによってかなり浸透したが、電子書籍全般に関しては漫画ほど読まれてはいない状況だ。しかし、オーディオブックであれば車や電車での移動中はもちろん、食事の準備中や入浴中などにも気軽に楽しむことができる。この自由度の高さは、オーディオブックの大きなメリットといえよう。

・文字に抵抗がある人でも本に親しめる

 人間には認知特性というものがある。広く知られているのが視覚優位と聴覚優位だ。視覚優位は、目での情報のインプットを得意とするタイプで、聴覚優位は、耳でのインプットが得意だ。これらの言葉は発達障害について語られるときに用いられるものであるが、発達障害の傾向がない方でも、視覚優位、聴覚優位のいずれかに傾いていることも多い。

 オーディオブックは、発達障害の傾向を問わず、聴覚優位で文字を読むことが苦手だった人たちが簡単に本を読むことができる優秀なツールである。また、文字を読めない方、視覚障害がある方にとっても手放せないサービスとなりうる。

・読書体験をリアルタイムで共有できる

 オーディオブックは、同じ場所にいる人々と読書体験をリアルタイムで共有できるツールでもある。たとえば、恋人と、友人と、家族と本を1冊購入して全員で、歓談しながら読書を楽しむというスタイルも想定できよう。途中で朗読を止めて、先の展開を予想したり、感想を言い合ったりといった楽しみ方もできる。

 また、子どもがいる家庭であれば、読み聞かせの一環といてオーディオブックを取り入れてもよいだろう。オーディオブックには、読書の新たなる可能性も拓かれているのだ。

 一方、オーディオブックには以下のデメリットも存在する。

・すべての本が対象ではない

 オーディオは、機械音声による読み上げではなく声優やナレーターによる朗読だ。朗読にはマンパワーが必要であるため、当然であるが、既刊、新刊ともにすべての本が対象になっているわけではない。現状、ビジネス書の分野が広くAudible化している状態で、文芸ジャンルファンにとってはまだまだ物足りない状態といえよう。

・倍速は一部可能、斜め読みはできない

 オーディオブックは、本によって倍速再生に対応している。全ての本ではないので、等速再生にまどろっこしさを感じる人もいるかもしれない。また、リアル本や電子書籍のような斜め読みができない。一気に読み飛ばすことは可能ではあるが、全体的にパラパラと読み飛ばしながら概要をつかむといった読み方には向いていないといえる。読書に慣れた人ほど、オーディオブックに不便を感じる傾向はありそうだ。

 徐々に日本でも浸透しつつあるオーディオブックだが、フィジカルな商品ではないものに対価を払うという感覚は、もともと読書を好む層にとっては高いハードルになるだろう。漫画アプリにおける「待てば無料」モデルや、サブスクリプションサービスの充実、タイトルの増加など、オーディオブックに期待される要素はまだ多い。しかし今後、あらゆる面でサービスが充実し、オーディオブックが米中並みに浸透すれば、出版業界にとって大きな希望となる可能性もありそうだ。

■千歳悠
フリーライター。得意ジャンルは金融など。読書は参考書、ビジネス書、漫画、小説まで幅広く読む。ちとせ(@chitose_haruka)

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