子育て、出産、ペット、セックス依存症……読まれているのに語られない、コミックエッセイの世界
圧倒的に「今」を向いている。だから、良い
そんなわけで、おそらくコミックエッセイ、特に日常あるあるものをまとめてジャンルとして語れ、また、そもそも歴史的な流れや同時代の広がりを整理して論じたいという動機を持つ人はほとんどいない。いるとしたら社会学者くらいのものだろう。
ただ、好奇心を主たるニーズとする特殊体験エッセイマンガであれば、あるあるものより属性的にいろいろなタイプの読者層が期待できる。だからこちらだけでも情報が整理されてもっと作品紹介がされるようになれば、いわゆるマンガ読みや文化系の人間にとって有益だと思うのだが……。
ともあれ、コミックエッセイは先ほど書いたとおり、圧倒的に「今」を向いている。今出た作品を、今読むのが楽しいジャンルだ。ある意味では、テレビのバラエティ番組に近い。
語られはしないがたしかに描かれて読まれている、今この時代が刻印されたものとしてのコミックエッセイを、個人的にはこれからも偏愛していきたいと思っている――し、もうちょっと世の中的にも取り上げる場が増えてはくれないものかと願っている。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。