ペットと過ごす最期の時間、あなたは仕事を休んでも良いーーカレー沢薫が伝える、大切な家族との別れ方
〈きみの生涯はだいたい10年から15年です。でも私は80年くらい生きます。きみと別れてからも、私の人生は長く続きます。〉
今まで多くの笑えるマンガやエッセイを世に送り出してきたカレー沢薫が異色の作品を生み出した。生き物を飼うことがテーマの『きみにかわれるまえに』だ。上記の文章は第1戒(第1話)のタイトルだが、このことを理解してペットを飼い始める人は果たしてどれくらいいるのだろうか。
ペットの命が尽きるとき、自分は飼い主としてこの子に100%応えることができたんだろうかと思う。著者は以前、ウェブサイト「キノノキ」で連載している「カレー沢薫のワクワクお悩み相談室」(http://kinonoki.com/book/onayamisodan/wakuwaku17.html)のお悩み相談で以下のようなお悩みに回答している。
〈カレー沢先生、おペット様との悔いのない別れ方をお教えください。〉
悩みを相談した人は老齢の犬を飼っており、近い将来必ず訪れるであろう家族の死にどう向き合えばいいかを相談している。このお悩みに対して、カレー沢薫の回答はこうである。
〈何か特別なことをするのではなく、おドッグ様にとって、最期まで変わらずあなたが世話係という名の飼い主であることが大事なのではないでしょうか。そうすればおドッグ様も安心して逝けるでしょう。〉
〈できるだけ悔いなくお別れし、おドッグ様亡きあとも思い出と共に心身健やかに過ごすのがおドッグ様のためにもなります。〉
〈最期が近いと思ったら、おドッグ様のこと以外は全部ハナクソ以下だと思って出来るだけ一緒にいるようにしましょう。〉
ペットも大切な家族であり、その家族がいなくなったら悲しみに暮れるのは当たり前である。泣いてもいい、悲しんでもいい。このときの回答者に寄り添った著者の死生観は今作の内容にも色濃く反映されている。17の短編を読んでいくと、そんな著者の優しさに涙が滲んで止まらなくなる。今作はペットをこれから飼う人、飼っている人、飼っていた人、みんなにゆっくりと沁みていく。
第5戒「私たちはやることが多すぎて優先順位を間違えます」はペットの最期が近いアラフォーのOLが主人公だ。体が弱ってきた老犬のシンタロウと少しでも長く一緒にいたいと思っているが、職場には子どもを持つ女性社員が多く、独身の彼女はたびたび残業を強いられてしまう。断ろうとすると「何か用があるのきみに? 1人のきみに?」と迫られ、シンタロウと過ごす時間は削られていく。ある日残業を終えて帰宅すると、シンタロウの体は冷たくなっていた。
〈あの残業は シンタロウの最後より大事だった?〉
〈…でも私40過ぎて大したこともできないから 今の会社にい辛くなったら困るし…〉
〈子育てしながら働いてる人も多いから 私みたいな独身で子どももいない奴は協力してあげないとダメでしょ…〉
〈でもそんなこと シンタロウには全然関係ないよね〉
命が尽きるそのときに傍にいてあげられなかった。その後悔と冷たくなった大切な家族を抱き続け、気付いたら空が白くなり始めていた。休みたい旨を上司に電話したら、子持ちの社員が休みであることを理由に渋られてしまう。
〈私には関係ない!〉
自分の気持ちを優先することができた彼女は、シンタロウが死んで初めて声をあげて泣く。