吉本ばなな氏のニセ書籍、販売側の責任は? 弁護士が語る、違反出品問題の悩ましさ

 人気作家の吉本ばなな氏が2月25日、自身の名前を騙った電子書籍がAmazonで販売されているとして、Xで「私はこんな本書いてないのでもちろん法的に訴えます」「読者のみなさん間違えて買わないでください」と警鐘を鳴らした。通報により現在は出品が取り下げられているが、人気作家のブランドが悪用され、本人の新作と誤認したファンに被害が広がる可能性があったこと、また吉本氏に限らず、同様のケースが少なからず見られることについて議論が広がっている。

 実際、人気作家の名前を騙った出版に対してはどんな法的措置が可能で、それを出品させたプラットフォーム側にはどんな責任が生じるのか。小杉・吉田法律事務所の小杉俊介弁護士は「弁護士としても悩ましい問題」だと語る。

「今回の件も明確に問題のある行為なのに、どんな罪に問えるかと言い切れないのが歯がゆいところです。名前を商標登録している作家さんは少なく、その場合には商標権の侵害にはならない。またパブリシティ権(※著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利)の侵害で訴えるとしても、具体的な損害額の算出が非常に難しく、例えば『村上春樹』さんにすら同姓同名の著作者(国文学者)がいますし、名前を使っただけで即ち違法とはなりづらい。偽のブランド品を販売している、と捉えるならば不正競争防止法違反とも考えられますが、非常に悩ましい問題です」(小杉氏)

 本物の吉本ばななの作品だと誤認した購入者が訴えるのであれば、詐欺罪に問える可能性がある。しかしそれほど高額な商品でもないため、訴えるメリットがあるかどうかーーそう考えたときに、「今後の法整備があるかどうかについても何とも言えず、吉本さんがそうされたように、短期的に考えられる最も有効な対策は『作家本人が声を上げ、啓蒙する』ということなのかもしれない」と小杉氏は言う。

 また今回問題になった小説は、装丁画も文章も生成AIで作られたのではないかと語られている。骨董品や美術品、ブランド品などの贋作であれば、作るのにもそれなりのコストが生じる。しかし、それらしいイラストや文章であれば極めて低コストで生成することが可能な今、何らかの対策を講じなければ、同様の問題はさらに広がっていきそうだ。問題のある商品を出品させたプラットフォーム側には責任があるのだろうか。

「Amazonは当然、出品禁止物を規定しており、そもそもそれに違反する商品だと知りながら意図的に見逃していたり、通報を無視して販売を続けさせた場合には法的責任を問われる可能性がありますが、国内外の判例からも、基本的に“場所を貸している”立場のプラットフォーマーがそれ以上の措置をとる法的責任はないと考えられます。Amazonも偽造品犯罪対策チームを発足させたり、不正を自動的に検知するAIを強化したりと度々対策を発表しています。しかし現在もブランド品の海賊版などは少なからず見られ、対応が繰り返されている状況です。今回の“人気作家の名前を使った書籍”もそうして長年続いている問題の一部であり、対策はそう簡単ではないのかもしれません」(小杉氏)

 とは言え、ニセ書籍の氾濫は作家にとっても、ファンにとっても、出版業界にとっても由々しき問題だ。現在オークションサイト等で贋作が問題化し、有効な対策がなされていない人気漫画家のサイン色紙のように無尽蔵に出品されるものではない分、「本人の作品であるかどうか」は確認しやすいはず。早期に何らかの対策が講じられることに期待すると共に、購入前にはこれまで以上に注意する必要があるだろう。

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