『鬼滅の刃』ロスに効く、退魔の物語3選 『筺底のエルピス』『Cocoon-修羅の目覚め-』『錆喰いビスコ』

『鬼滅の刃』ロスに効く小説を読もう

刀を振るい鬼を狩る吉原の花魁『Cocoon-修羅の目覚め-』

 夏原エヰジ『Cocoon-修羅の目覚め-』(講談社)から始まるシリーズも、人間が鬼と戦う物語。第13回小説現代長編新人賞から出た作品ながら、マツオヒロミが描く美麗な表紙絵とソフトカバーの装丁で、ライトノベルやキャラクター小説好きでも手に取ってみたくなる。

 舞台は江戸の吉原。主人公の瑠璃は、遊女でも最高峰の花魁でありながら、刀を振るって鬼を退治する闇組織「黒雲」の頭領というから、ひとりで鬼殺隊のお館様と柱をやっている。幼い頃、刀を携えて川を流れていたところを、芝居の一座に拾われ育てられた。ところが、座長が死んで女形の次男が後を継いだ際に、目障りだからと吉原の妓楼に放り込まれてしまう。

 15歳での吉原入りは遅すぎる。それでも花魁になれたのは、妓楼のお内儀が請け負ってくる鬼退治を任されたから。瑠璃の出生には秘密があり、携えていた刀や、いつも側にいて人語を話す猫の炎とも関係するその秘密が、彼女を「黒雲」の頭領に押し上げた。瑠璃は髪結いの錠吉、料理番の権三、若い衆見習いで双子の豊二郎と栄二郎を率い、生きながら鬼となって鬼や妖怪を滅する呪力を放つ楢紅を使役して、江戸に現れる鬼を退治して回る。

 「鬼はすべて、わっちが斬る!」という第1巻の帯から、美貌の花魁が颯爽と刀を振るい悪を葬る華やかな退魔ストーリーを想像してしまうが、実際には鬼との戦いは、正義だからとは片付けられない苦渋を瑠璃に味わわせる。鬼の多くは怨嗟や後悔を残して死んだ者たちで、心情を思うと悪だからといって一刀両断にはできない。第1巻でもクライマックスに、鬼になった恩人との慟哭の戦いが待ち受ける。

 巻が進んで瑠璃や「黒雲」の戦いが、江戸幕府の将軍と朝廷の天皇という、巨大すぎる勢力が争う渦中で繰り広げられていたことが分かり、自分を追い出した義兄が敵として立ちはだかって、瑠璃の振るう剣を迷わせる。第4巻『Cocoon4 宿縁の大樹』では関東に封じられたあの大悪霊が復活。戦いは江戸を阿鼻叫喚の渦に叩き込みそうで、続きが待ち遠しい。

元気いっぱいのキノコ使い『錆喰いビスコ』

 もうひとシリーズ、炭治郎に負けず元気いっぱいの主人公が活躍する話として、瘤久保慎司『錆喰いビスコ』(電撃文庫)のシリーズも挙げておこう。第24回電撃小説大賞で銀賞となった作品で、防衛兵器が起動して東京に大穴が開き、すべてを錆び付かせる風が吹いて滅びかかっている日本で、矢を射りさまざまな種類のキノコを生やす技を持ったビスコという少年が暴れ回る。

 ビスコは、全身が錆に覆われはじめた同じキノコ守りの仲間を救おうと旅をしていた。もっとも、キノコ守りこそが錆を拡散する原因だと思われている世界でビスコはお尋ね者。追っ手と戦いながら旅する途中で、やはり錆の病から姉を救いたいと願うミロという名の医者の少年と仲間になり、錆に効く秘薬を求めて北に向かう。

 すべてが錆びついた世界を、奇妙な生物たちが跋扈しているという、想像力をかき立てられる舞台の上で、たとえ勝てそうもない相手でも、ひるまず挑んでいくビスコのパワフルでアグレッシブな戦いぶりがかっこいい。女子のような顔立ちのミロもビスコに感化され、戦い方を覚え信頼できる相棒になっていく。そんな2人が繰り広げる冒険が、巻を重ねて続いていく。

 赤岸Kが描く荒々しくてスタイリッシュなイラストも作品の魅力を増幅する。圧巻の物語と圧倒されるビジュアルが、映像となって動き出すのはいつかと期待したくなるシリーズだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。



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