少年ジャンプ+発『地獄楽』さらなるブレイクなるか? 孤島で繰り広げられる極悪人たちの死闘
愛があるから人は強くなれるのか? 信じるものがあるから苦しみを乗り越えていけるのか? 南海の孤島を舞台に、忍者やくのいち、浪人、海賊といった極悪人たちが、異形の化け物を相手に死闘を繰り広げる賀来ゆうじ『地獄楽』の最新第10巻が6月4日刊行。妻との再会を果たすため、敵を屠り続ける主人公の画眉丸や、打ち首執行人の仕事に迷う女剣士ら登場人物たちの心情に触れ、みな生きて帰るんだと叫びたくなる展開だ。
『地獄楽』は集英社のウェブサイト「少年ジャンプ+」で2018年から連載が始まった忍法浪漫。劇画のようで、沙村広明『無限の住人』のようでもある荒々しさを感じさせるタッチで、美貌の剣士や飄々とした忍者、巨漢の剣豪、両性具有の怪物などが入り乱れ切り結ぶバトルは圧巻で、累計200万部に達するヒット作となっている。
南海に美しい花が咲き、蝶が舞う極楽浄土のような島があった。江戸幕府から幾度か調査団が送り込まれたが、60人以上が消息不明となり、生きて戻った者も体から花が咲き、人間性を失っていて何が起こったのか聞き出せない。危険な感じがしたが、時の将軍・徳川斉慶は、人間が花になるような不思議な島なら、不老不死の仙薬があるに違いないと決めつけ、探索隊を送り込むことにした。
死んでも構わない者どもということで、暗殺や強盗、謀反に異端といった罪を犯して捕縛され、死罪を言い渡されていた10人が、生きて帰れば免罪されるという恩典付きで選ばれた。監視役として付き添ったのが「山田浅ェ門」を名乗る打ち首執行人たち。歴史上では刑場で斬首を行う「山田浅右衛門」が実在したが、『地獄楽』の山田浅ェ門は剣術の一門に近い存在で、多くの門弟たちがいる中からやはり10人が選ばれ、死罪人たちと共に島へと送り込まれた。
以上が『地獄楽』のイントロダクション。主人公の“がらんの画眉丸”も死罪人のひとりで、忍びたちが拠点にする石隠れの里で筆頭となって当代「画眉丸」を名乗り、暗殺などの裏仕事で活躍して来た。何の感情も抱かず人を殺めていたが、里で妻を得たことで心に変化が起こり、里を抜ける決心をして里の長の了解ももらい、最後の任務に赴いた先で里に裏切られ、捕縛されてしまった。
すぐに死罪となるはずが、肉体が頑健なため刀で切っても傷ひとつつかず、火あぶりにしてもまったく燃えない。それならと斬首を依頼されたのが山田浅ェ門佐切。山田家現当主の実娘で、後継者の妻に収まる道が約束されていながら、打ち首執行人になる道を選んだ。死ぬのは怖くないと言いながら、心の中で妻との再会を願っていた画眉丸を誘い、ペアを組んで他の死罪人や浅ェ門と乗り込んでいく。
免罪される死罪人はひとりだけだという条件から、島へと向かう船で殺し合いが始まり、島でも孤島サバイバルのような光景が繰り広げられるのかと思いきや、人間どうしの小競り合いをあざ笑うかのように、異形の化け物たちが現れ上陸した人間たちに襲いかかる。その最たる存在が、不老不死の仙丹を作り出す研究をしている7人の「天仙」たち。千年も生きながら若くて美しい姿を保ち、女にも男にも自由に姿を変えて画眉丸たちの前に現れる。
『鬼滅の刃』の上弦の鬼たちのように、それぞれ超絶的な力を持つ天仙たちを相手に、まずは生き残ることが島外から来た者たちにとって最優先となる。最後のひとりなるまで殺し合うはずだった死罪人たちや、監視する者として死罪人たちとは敵対関係にある浅ェ門たちが共闘関係を結び、武技に限らず解剖学の知識なども含め、それぞれの持ち味を組み合わせて倒していく。戦術の妙味を堪能できるバトルシーンだ。
同時に、共闘を通じて浅ェ門と死罪人との間に、心の交流が生まれるところが感慨を誘う。謀殺に明け暮れていた女忍者の杠(ゆずりは)とペアを組んだ浅ェ門仙汰は、絵を描くことが好きな学究肌の若者だったが、家のしきたりで山田家に入らざるを得なかった。自由に生きる杠に憧れを抱くようになった仙汰は、彼女に命を譲るようにして退場していく。