少年ジャンプ+発『地獄楽』さらなるブレイクなるか? 孤島で繰り広げられる極悪人たちの死闘

『地獄楽』画眉丸の強さの源は“優しさ”か

 最新の第10巻では、剣豪・民谷厳鉄斎の監視役をしていた浅ェ門付知が、島で厳鉄斎や他の死罪人、そして浅ェ門たちと共闘して得た経験から、罪人を斬るという絶対の役目がありながら、死罪人の感情を否定できないという矛盾した思いを抱くようになる。付知が下した決断と、ラストへと向かってつぶやかれるモノローグ、そして最終ページで見せる笑顔に触れた後、物語が悲惨な色を濃くしていっても、フィナーレは全員が願いをかなえ、満足した姿で迎えて欲しいと思えてくる。

 優しさや思いやりといった感情が、強さに繋がっているのかもしれないということも見えてくる。画眉丸は支配される恐れがありながら、肉体の再生を可能にする花の寄生を受け入れてでも天仙に勝利しようとあがく。誰よりも強い忍者だったことは確かだが、絶体絶命の戦いでも諦めずに生き延びられたのは、もう一度妻に会いたいという強い思いがあったからだろう。

 画眉丸を待つ妻など存在せず、頭領が画眉丸を里に縛り裏切らないようにするために、幻影で作りだしたものかもしれないという疑惑が晴れた訳ではない。結末に待ち受けるのは悲劇かもしれない。それでも、今という瞬間を生きる上で妻への愛は、そして帰還するという目的は苦難を乗り越える力になった。不安と苦難に満ちた現代、そんな愛すべき対象、向かうべき目標を自分も得たいと思わせる物語だ。

 『地獄楽』が連載されている「少年ジャンプ+」からは、マンガ大賞2019を獲得した 篠原健太の『彼方のアストラ』や、マンガ大賞2020で第2位となった遠藤達哉『SPY×FAMILY』が生まれている。『地獄楽』は8巻までというマンガ大賞の受賞資格を外れてしまっているが、人気は両作に決して負けていない。さらなるブレイクに必要なのが『鬼滅の刃』のようなアニメ化だとしたら、是非にと期待したいところ。

 極彩色の花が咲き乱れ、絢爛たる建造物が並ぶ異様な舞台で、異形の化け物や美しい天仙たちを相手に、術や剣戟を繰り出し切り伏せていくアクションシーンは大いに受けそうだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『地獄楽』(ジャンプ・コミックス)既刊10巻発売中
著者:賀来ゆうじ
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/jigokuraku.html

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