アニメ版『はめふら』、原作ファンも虜にする魅力 メディアミックス成功のポイントは?

『はめふら』幸せなメディアミックス

 『はめふら』を代表するシーンとして知られるカタリナの脳内会議も、アニメではよりエンタメ性を強調した場面に仕上がった。原作小説では議長、議員、書記と3人のカタリナ・クラエスで進められる脳内会議は、コミカライズでは5人の分身と、よりにぎやかな表現に改変された。アニメではコミカライズの設定を活かし、この5人にそれぞれ<議長、弱気、強気、真面目、ハッピー>という性格を与えることで、脳内会議の場面をさらに盛り上げている。カタリナ役の声優内田真礼による声色を変えた演じ分けも、見どころの一つだ。

『脳内ポイズンベリー』1巻

 なお、キャラクターによる脳内会議という表現技法そのものは、他の作品でもすでに試みられている。たとえば、その代表作として知られる水城せとなの漫画『脳内ポイズンベリー』では、主人公の心理描写が脳内に住まう老若男女の会議を通じて描写された。一方、『はめふら』の脳内会議では、登場する脳内キャラクターがすべてカタリナ・クラエスであるシュールさや、会議を通じて導き出される結論がいささか突飛な方向性をもつことなどが、他にはないユニークな味を醸し出している。

 この原稿を執筆時点でアニメは第5話まで放映済みだが、随所に制作側のストーリーやキャラクターへの理解の深さが滲み、その“わかっている感”に絶大な信頼を寄せたくなる。各キャラの関係性を的確に描写した心躍るOPで視聴者の心を掴み、エピソードを適切に取捨選択してテンポよくストーリーを進めてきたが、第5話ではアニメ版のオリジナル展開を取り入れることで、物語の補完においても見事な仕事ぶりを発揮した。

 第5話でカタリナと義弟のキースは、マリアの実家を訪問するが、このシーンは小説ともコミカライズとも異なる展開で進み、マリアのトラウマの描写とその克服、さらには母親との和解が丁寧にフォローされた。これまではコメディタッチが目立ったところに、アニメ版が独自にエピソードを掘り下げ、重さを付加したことで、マリアがカタリナに心を救われ、彼女を慕う様の説得力が増した。

 男女ラブコメだけでなく、女女ラブコメとしても絶妙な匙加減をみせる本作は、今後ますます人気が高まってゆくだろう。1クールアニメとして放映予定の『はめふら』だが、原作小説の流れのままでは、やや尺が余るようにも感じる。今後もアニメオリジナルで話を膨らませていくのだろうか。今期の要注目アニメとして、これからの展開にも期待したい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)1〜9巻発売中
著者:山口悟
イラスト:ひだかなみ
出版社:株式会社 一迅社
価格:各本体638円+税(通常版)
https://www.ichijinsha.co.jp/iris/otomegame/

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