池上彰×増田ユリヤ、コロナ禍で今すぐ伝えたかったこと 「生きる希望は歴史にあり」
5月1日に緊急出版された池上彰×増田ユリヤ『感染症対人類の世界史』(ポプラ新書)の売れ行きが好調だ。ニュースを“わかりやすく解説する”ことに関して定評があり、現在もテレビをはじめ各メディアで引く手あまたのジャーナリスト・池上彰と、同じくジャーナリストであり池上との共著や共演の機会も多い増田が、表題のテーマについて対談形式で解説する本書。テレビ番組の特集での共演をきっかけに「番組オンエアから二週間足らずで原稿を仕上げ、まずは電子書籍で、続いて一般の書籍として世に送り出すことになりました」(「おわりに」より)というこの本には、いったいどんなことが書かれているのだろうか。
「最初の一冊」として最適の書
「はじめに」でも書かれているように、本書の目的は感染症に翻弄されてきた人類の歴史をひもとくことによって、今我々の目の前にある新型コロナの危機について考える、さまざまな“ヒント”を探ることにある。具体的には、「なぜイタリアとイランに患者が多いのか」という今回の新型コロナに関する疑問をきっかけに、シルクロードの形成からモンゴル帝国の成立、ヨーロッパにおけるペストの大流行など、人と物の交流こそが今も昔も感染症の広がりと大きく関係していることを、第1章でザックリと解説。
続く第2章と第3章では、これまで人類に大きな被害を与えてきた「天然痘」と「ペスト」という2つの感染症の歴史と具体的な被害、さらにはそれらが与えた社会的影響について、それぞれ解説する。
そして第4章では、その「日本編」として、日本における感染症の歴史、とりわけ奈良の大仏建立のきっかけにもなった8世紀の「天平の大疫病」について重点的に解説。曰く、疫病の流行後、復興政策として作られたのが「墾田永年私財法」であり、土地の私有化を許可することによって、人々のモチベーションと農業生産性を爆発的に高めたという。
このように、感染症が社会制度を変える大きなきっかけとなった事例を挙げながら、続く第5章では、第一次世界大戦の終結を早めた一因と考えられている「スペイン風邪」について。「人類の反撃」と題された第6章では、コッホやパスツールなど細菌の存在を解き明かした人々の系譜から、医療現場の衛生管理の改善を主導したナイチンゲールやペスト菌を発見した北里柴三郎、ペニシリンの発見など、感染症にまつわる過去の偉人たちの業績について駆け足で辿ってゆく。
などなど、章ごとに一応のテーマは立てられているものの、そこで言及される話題は実に多岐にわたっており、章をまたいで繰り返し登場するトピックや、「という説がある」という形で紹介されるなど、やや留保が必要な話もいくつか見受けられる。けれども、対談形式であるがゆえの“読みやすさ”と“入りやすさ”、そして今年の4月現在の話であるという“スピード感”は、やはり他に代えがたいものがある。感染症の歴史について知る上で、まずは最初の一冊として、あるいは巻末の参考文献一覧にある石弘之『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)や山本太郎『感染症と文明 共生への道』(岩波新書)、あるいはジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(草思社文庫)などの書籍を読む前に、全体の見取り図を描いておくための一冊としては、実に最適な一冊と言えるだろう。