絵画の世界を描く『ブルーピリオド』はなぜ説得力がある? 「才能」というブラックボックスを開く漫画表現
「天才」はトライ&エラーを繰り返し続けた先に
八虎の前には絶え間なく壁が現れる。壁を越えるためには、考え抜いて、ひたすら手を動かすしかない。そうやって答えを掴んだと思ったら、すぐに覆されてまた新たな壁に直面する。「正解」も「最短ルート」もないことを、何度も何度も何度も思い知らされる。
けれどそれはもしかしたら、凡才も天才も同じかもしれない。八虎からは才能があると見られている世田介もマキも、生々しく苦しんでいる。
この世に「才能」というもの自体は存在するのだろう。けれど、「才能だけの天才」というものは、たぶんいない。きっと、トライ&エラーを繰り返し続けた先に「天才」と呼ばれる人がいる。秀才の八虎だって、誰かから見れば天才かもしれないのだ。
日本一受験倍率の高い大学。天才たちの集う場所。正解のない「芸術」。「よくわからないもの」に思われるその世界を、『ブルーピリオド』は鮮やかに切り出して、もしかしたらそう遠い場所ではないのかもしれないと思わせてくれるのだ。
■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
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