80年代の音楽シーン描いた不朽の名作『To-y』 作者が伝えようとしたメッセージとは?

80年代の音楽シーン描いた不朽の名作『To-y』 作者が伝えようとしたメッセージとは?

 1985年の春、ある革新的な音楽漫画の連載が『週刊少年サンデー』で始まった。上條淳士の『To-y』である。80年代半ばの音楽界といえば、メジャーシーンではアイドル黄金期、アンダーグラウンドではインディーズブーム(のちのバンドブーム)が起きつつあり、時代を象徴するその両極端なふたつの世界を、白黒のコントラストの強いスタイリッシュな画風で鮮烈に描いた同作は大ヒット。昭和の旬なネタをふんだんに織り込んでいるにもかかわらず、いや、それゆえにというべきか、いずれにせよ、35年経ったいま読み返してみてもまったく古びていない。

読者に向けられた上條のメッセージ

 主人公の名は、藤井冬威(トーイ)。パンクバンドGASPのカリスマ的なボーカリストだったが、敏腕芸能マネージャーに見出され、アイドルとしてソロデビュー。いちはやくプロのアイドル歌手になっていた恋人(従姉妹)の森ヶ丘園子や、やがてよきライバルとなる哀川陽司(もちろんモデルは吉川晃司)の目の前で、その名の通り「音」を「オモチャ」にして、芸能界の古くさい仕来りや既成概念を次々と破壊していく。

 歌詞を書かないことで逆に「歌」や「声」を読者に想像させる手法から、音の放出をスピード線で表わすという斬新な発想、そして、奏でる音楽のジャンルによって正しく描き分けられたプレイヤーのファッションと機材の細かい描写にいたるまで、本作が音楽漫画のジャンルにもたらした革新的な表現は数知れないが、そうした技法的なことはこれまで、私も含めたさまざまな論者がさまざまな場所で書いてきたことだから、今回は詳しく書くつもりはない。それよりもむしろ、いまこの記事を読んでくださっているあなたにお伝えしたいのは、本作で描かれている力強いテーマについてだ。

 物語のクライマックス――トーイの渋谷公会堂でのコンサートをめぐる騒動を描き終えた上條は、前述の園子とは別のもうひとりのヒロイン、山田二矢(ニヤ)のトーイに向けたメッセージ、「ねえ、とおい、うたってる?」という言葉で本作を締め括る。これは物語の結末であると同時に、連載終了の1987年の時点で、上條が未来(いま)を生きる読者に向けて解き放ったメッセージでもあった。

 それは、ひと言でいえば、「あなたはいまも歌い続けていますか?」という問いかけであり、連載終了後も上條は、ことあるごとに「トーイは歌い続けている」と言い続けてきた。だからこそ本作は、序盤に出てくる「藤井冬威、激しく短い芸能生活の幕開け」という意味深なナレーションから、トーイの命を狙う熱狂的なファン(カイエ)の存在、さらには最終回の派手な交通事故のシーンにいたるまで、全編にわたって不吉な「死」や「破滅」のイメージに満ちていながら、作者は最後まで主人公を死なせなかったのだ。

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