『ブルーピリオド』アートとスポ根の化学反応はなにを生む? 最新7巻で描かれる、八虎の新たな苦悩

『ブルーピリオド』最新7巻レビュー

 八虎が、ふたたび筆を握る。マンガ『ブルーピリオド』の最新7巻が、3月23日に発売された。矢口八虎(やぐち やとら)を主人公とした本作は、6巻で区切りとなる「受験編」が終了した。彼は無事、東京藝術大学の絵画科油絵専攻に現役合格し、7巻では目指すべき場所であった芸大での生活から物語は始まる。新たな場所と真新しいキャンバスに向き合う姿が、最新刊で描かれ出す。

受難の道、絵画の世界へ足を踏み込んだ青年の物語

『ブルーピリオド』1巻

 改めて本作『ブルーピリオド』の概要を紹介しておきたい。何でもそつなくこなし、友人関係も良好な高校生・矢口八虎。いまいち何かに熱中したり没頭することもできないまま高校生活を過ごしていたが、ある日、美術室に立てかけられた1枚の絵によって人生が一変する。それは1学年上である美術部の森が描いた絵で、彼女は八虎に“絵の自由さ”について語りかける。八虎はその言葉をきっかけにして、絵画の世界にはまり込んでいき、やがて自身の目標に東京藝大合格を掲げるようになる。

 しかし、絵で表現する道とは平坦なものではなく、その難しさと定義の曖昧さ、試行錯誤の連続に八虎は何度も体当たりを繰り返すこととなる。その度、持ち前の理解能力と勘の鋭さで力をつけていくも、結果はすぐには表れない。日進月歩の日々が、きんと尖ったタッチで、時に鮮やかな色彩を思い起こさせるように描かれる。

 女装をして学校に通っている鮎川龍二、ずば抜けた才能を持ちながらどこか他人を拒絶し心を開こうとしない高橋世田介、姉が芸大の首席という誉と相対するコンプレックスと闘いながら筆を握る桑名マキなど、同じ芸大を目指す様々な仲間たちと共に、ひたすら己と向き合い、研磨する日々。

 それは彼にとって、少なくとも絵画の世界に出会う前の平凡な世界とは違っていた。苦しみ、焦り、悶える毎日。それでも八虎は最後まで果敢に挑み続け、ついに東京藝大現役合格の道を自らの手により切り開いたのだった。

アートとスポ根、今までにない異色の化学反応で彩られる魅力

 『ブルーピリオド』は「マンガ大賞2020」にノミネートされ、みごと大賞を受賞した。その際、審査員コメントでも「クリエイターの持つ苦悩の芯を食いすぎてて息苦しくなる」(会社員/小野塚博之)や、「『情熱』と『テクニック』という一見、相反する2つの要素を『美大受験』という一つの舞台に盛り込んだ、これで燃えないわけがない」(ダ・ヴィンチ編集長/関口靖彦)など、作品を生身で感じた感想と称賛の声が数多く寄せられた。

 本作は主人公が目標を定め、その目標に向かってひた走り、時に苦悩し時に喜びを見出し、仲間たちと切磋琢磨していく、という王道スポ根の筋を通して描かれている。しかし、その土台となっているのが「アート」という、今までにない分野として描かれているがゆえに、未知の化学反応が起き、読者の興味関心を弾きつけてやまない魅力に溢れた作品となっていることが特筆すべき点だ。

 また、作者の山口つばさ自身が芸大出身であるがゆえ、その描写はきわめてリアルであり、「追体験できるようなマンガが描きたかった」という言葉通り、実際の体験やその時感じた感情を織り交ぜて描かれるマンガは何よりも説得力を帯びている。“描く人”が“描く人”を描いたマンガとして、見せゴマである大ゴマの使い方や、はっとするほどのキャラの表情描写、芸大受験までのプロセスを正確に追いながらも胸を熱くする展開の数々において唯一無二といえる個性を放っているのだ。

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