『神達に拾われた男』など「なろう」作品が上位に 文芸書週間ランキング考察
週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(3月3日トーハン調べ)
1位『熱源』 川越宗一 文藝春秋
2位『神達に拾われた男(8)』 Roy ホビージャパン
3位『ライオンのおやつ』 小川 糸 ポプラ社
4位『むかしむかしあるところに、死体がありました。』 青柳碧人 双葉社
5位『幼女戦記(12)Mundus vult decipi, ergo decipiatur』 カルロ・ゼン KADOKAWA
6位『medium 霊媒探偵城塚翡翠』 相沢沙呼 講談社
7位『ムゲンのi(上)』 知念実希人 双葉社
8位『魔導具師ダリヤはうつむかない 今日から自由な職人ライフ(4)』 甘岸久弥 KADOKAWA
9位『背高泡立草』 古川真人 集英社
10位『転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい』 高木コン アルファポリス発行/星雲社発売
3月の文芸書トーハンランキング、10位中4作は本屋大賞ノミネート作品だ。そのうちの1作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の著者・青柳碧人氏は、早稲田大学教育学部出身で、学習塾勤務のかたわら知見を活かして執筆した『浜村渚の計算ノート』で2009年に「講談社Birth」小説部門を受賞し小説家デビュー。同作はシリーズ化され、累計60万部を突破している。『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は数学とは関係ないが、誰もが知る昔ばなしをミステリーの観点で読み解き描きなおすという意欲作。「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」「つるの倒叙がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」と収録作のタイトルだけで好奇心がくすぐられるが、数学でも昔ばなしでも、自分の身近に転がっているありふれたテーマを、発想と筆力で唯一無二の物語に変えていけるからこそ、多くの読者の支持を得ているのだろう。
同じくノミネートされた『ムゲンのi(上)』の著者・知念実希人も、内科医としての知見を活かして医療ミステリーを書き続けており、映画公開中の『仮面病棟』でその名を知った人も多いだろう。『ムゲンのi』は、眠り続ける謎の奇病「イレス」におかされた患者4人を担当する若き神経内科医・愛依が主人公。沖縄の霊能力者「ユタ」だった祖母の助けを借りて、患者の見る夢の世界に飛びこんでいく……というファンタジックな設定の裏に隠されているのは、都内で頻発する猟奇殺人事件の真実。『ムゲンのi』というタイトルにも複数の意味がこめられており、“医療ミステリー”の枠を知念氏は本作で大きく広げた。