LINEノベルは新たな小説創作の場となるか? 「令和小説大賞」受賞作に見る、狙いと展望

LINEノベルは新たな創作の場となるか?

 LINEが運営する小説投稿・閲覧プラットフォーム「LINEノベル」発の新人賞「令和小説大賞」の第1回受賞作が2020年3月3日に発表された。(編注:メイン画像はLINEノベルの公式サイトより)

そもそもLINEノベルとは

 LINEノベルは2019年4月16日に投稿受付を開始し、同年8月8日からiOSにてサービスイン(アンドロイド版は9月から)した小説サービス。

 「小説家になろう」などと同様に投稿された小説を無料で読めるだけでなく、LINE文庫などでLINEが版元となって本を刊行する小説がアプリ上でも配信されるほか、各出版社から刊行された既刊本がいわゆる「話売り」(正確にはレンタル)形式で読める――毎日3枚無料チケットが配付され、それ以上読みたければ課金という多くのマンガアプリで採用されているのと同じチケットモデル――、というものになっている。

 ダウンロード数やアクティブユーザー数は今のところ公開されていない(2019年9月に「提供開始から1ヶ月で読者数10万人を突破」というリリースは出たが、そこで言う「読者数」とは何かの定義は不明)。

「令和小説大賞」の特徴とは

 小説新人賞である令和小説大賞の特徴は何か?

 ひとつは、大賞受賞作の映像化が確約されている点だ。講談社主催の江戸川乱歩賞もフジテレビによって映像化されることが決まっている新人賞であり、新潮社の日本ファンタジーノベル大賞も最初の2年は受賞作がアニメ化されていたが、それを除けば映像化を約束した賞はきわめてまれだ。

 もうひとつは、純文学でもラノベでもそれ以外の一般文芸(エンタメ小説)でもジャンルは問わないとしている点だ。とはいえ最終選考の審査員はラノベ編集者、日テレ、アニプレックスが並んでいることから、映像化を前提としたエンタメを主に求めているのだろうことは明白だが、建前としてはエンタメ以外の純文学でもエッセイでもノンフィクションでも問わない、としている。

受賞作はどんなものだったか?

 では第1回大賞受賞作品はどんなものだったか? そこからどんな傾向が見えるだろうか?

 大賞受賞作は遊歩新夢『星になりたかった君と』。

 祖父と新星を発見したが第三者に横取りされ、祖父を亡くした天文少年が、「新星を見たい」と言う少女と出会うが、彼女は心臓に病気があり、移植ドナーが見つからなければ、あるいは移植手術が失敗すれば死ぬ運命にある。

 いわゆる難病もので、少女の性格や口調なども含めて住野よる『君の膵臓をたべたい』を否応なく想起させる作品だ。

 情報を出す順番をいじれば読者にも主人公が感じたのと同じサプライズを仕掛けられただろうが、読者はとっくに重要な情報を知っていて主人公だけが後から驚く構成になっていたりと惜しいところが目立つが、書籍化・映像化にあたって磨いていけば傑作になるかもと思わされるものだった。

 選考委員特別賞受賞作はふたつ。

 ひとつめは谷山走太『負けるための甲子園』。

 野球部のエースでピッチャーの啓人が、実は怪しげな店で双子の兄・和人の存在を引き換えに野球の才能を買った(和人の存在は消え、周囲の人物は「和人」だと名乗っている人物が啓人だということに気づかない)という物語だ。彼は兄を買い戻しにわざと甲子園の決勝戦で失投して野球賭博で1000万円手に入れたが、買い戻すことはできなかった……ということに始まり、キャッチャーの純平やマネージャーの美咲が絡んでくる。言ってみれば『タッチ』と『笑ゥせぇるすまん』が合体したような話である。

 なかなか野球を題材にした小説を読もうという気にはならないが、こういうやり方なら野球小説も読ませられるのだなと感心した(試合のシーンの描写も多い)。

 ふたつめは、エフ『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』。

 この作家は「Fラン大学就職チャンネル」で活動するYouTuberである。

 YouTuberが書いて商業出版されることになる小説はおそらくまだほとんどないのではないかと思うが、本作はその先駆になる作品だ。

 内容は、『ドラクエ』を思わせる中世風ファンタジー世界で、なぜ勇者が旅立つ城下町の武器屋では銅の剣までしか売らないのかと店主に問いただした商人見習いの若者を主人公とし、彼が「どうしてこの世界には各土地によって売っていい武器のランクが決まっているのか」「なぜモンスターはゴールドを落とすのか」という奇妙な商慣習や現象を解き明かしていく、というものだ。一度行ったことのある土地には瞬時で移動できる「キメーラの翼」を使って商人の情報規制によって高値で取引されていたチューリップバブルを崩壊させるなど、現実世界で起こった出来事を想起させるネタもたくさん仕込まれており、おもしろく読める。

 ただ、頭のいい主人公がひとりであちこちに行って世界の真実にたどり着く、というスタイルになっており、単調ではある。かけあいできる相手がいてくれればもっと楽しくなっただろうなと思わされた。

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