伊坂幸太郎と斉藤和義、2人の“出会い”が生み出した『アイネクライネナハトムジーク』の面白さ
映画は、6つの物語を約2時間に納めるために、鈴木謙一の脚本によって、佐藤を中心にした物語として再構築されている。そのため、小説は、『アイネクライネ』と『ナハトムジーク』という短編の間に4本の短編が挟まっているという構図になっているのだが、映画は「『アイネクライネ』/『ナハトムジーク』+『ライトヘビー』(『アイネクライネ』を元に斉藤和義が作った曲『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』への返歌として伊坂によって執筆された短編)」という構図が主軸になっている。それは、ある意味、佐藤を中心にした物語である以上に、「斉藤さん」を中心にした物語であるとも言えるのである。
というのも、『ライトヘビー』と『ナハトムジーク』に登場する「斉藤さん」という人物がいる。無論、斉藤和義からきている。小説では100円でその人の気分にあった「斉藤なにがし」の曲のワンフレーズを流してくれる、路上に佇む謎の男という設定だった。だが、こだまたいち演じる映画版の「斉藤さん」は、10年に渡って同じ場所で同じ歌、主題歌でもある斉藤和義の『小さな夜』を歌い続けるストリートミュージシャンというポジションでそこに佇んでいる。ここで活きてくるのが、『アイネクライネ』で織田由美が佐藤に言う言葉だ。
「その時は何だか分からなくて、ただの風かなあ、と思ってたんだけど、後になって、分かるもの。ああ、思えば、あれがそもそもの出会いだったんだなあ、って。これが出会いだってその瞬間に感じるんじゃなくて、後でね、思い返して、分かるもの。」
「小さく聞こえてくる、夜の音楽みたいに?」
「そうそう」
『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫、P33)より
小説が言うところの「ただの風」のような存在が、映画における「斉藤さん」なのではないか。彼の存在が、登場人物たちを結びつける。そう思うと、小説と音楽との出会いで始まった『アイネクライネナハトムジーク』は、映画と出会い、様々な才能が、絶妙なバランスで調和することで、新しい物語となったのだと思わずにいられないのである。
これは「出会い」が生んで「出会い」が作った、小さな「出会い」たちの物語である。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。