リナ・サワヤマ、マネスキン、ヤングブラッド……海外アクトがサマソニに残した、型に縛られず生きるメッセージ
総括 〜現代における巨大な音楽フェスティバルの存在について〜
もちろん、アーティストが何かしらのメッセージをステージ上から発信することは数十年前から続いており、それ自体が珍しいわけではない。だが、時代の変化と共に、「ステージからメッセージを発信すること」の重要性が高まっていることは事実だろう。なぜなら、この時代において巨大な音楽フェスティバルは、その場所だけで完結するクローズドな空間ではないからだ。
例えば、今年の『グラストンベリー・フェスティバル 2022』は米国内で人工妊娠中絶を憲法上の権利として認める「ロー対ウェイド判決」を覆す判決が出た直後というタイミングで開催されたため、ケンドリック・ラマーやビリー・アイリッシュといった多くの出演アーティストが抗議の意をステージ上で示していた(※3、4)。同フェスティバルはイギリス国内で開催されているが、そのステージで起きた出来事やメッセージは瞬く間に世界各国のメディアで報じられ、やがて世界中の人々が知ることとなる。今回のサマソニに関しても、The 1975やメーガン・ジー・スタリオンなど多くのパフォーマンスの模様が海外のメディアで報じられ(※5、6)、冒頭で書いたリナ・サワヤマのスピーチに関しても、ライブの2日後にはPinkNews(イギリスを拠点に世界中で親しまれている、クィアコミュニティを対象としたWebメディア)が取り上げていた(※7)。
また、そこで発せられたメッセージは言語の壁をも簡単に超えていく。日本語で語られたリナ・サワヤマのメッセージが英語圏のメディアで報じられ、英語で語られたメーガン・ジー・スタリオンのメッセージが瞬く間に日本国内のSNSで話題となったのは、その内容に共感し、それを翻訳して一人でも多くの人々へ伝えようとするファン、あるいはコミュニティがいたからだ。
つまり、巨大な音楽フェスティバルのステージに立つということは、世界中の人々に対してアピールする、メッセージを伝えられる場を持つことと同義であり、それは同時に大きな責任を伴うものである。現代のポップミュージックのメインストリームで活躍するアーティスト(と、それを支えるスタッフ)は、それを自覚し、その責任と正面から向き合っている。だからこそ、今年のサマソニはただの祝祭というだけではない、様々なメッセージに満ちた意義のある場所となっていたのだ。
※1:https://www.pinknews.co.uk/2020/01/02/yungblud-transgender-fan-mars-transition-david-bowie-new-album/
※2:https://gendai.media/articles/-/96150
※3:https://edition.cnn.com/2022/06/27/entertainment/kendrick-lamar-glastonbury-plea-womens-rights-intl-scli-gbr/index.html
※4:https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-61933487
※5:https://www.nme.com/news/music/the-1975-comeback-gig-summer-sonic-tokyo-footage-video-setlist-3294391
※6:https://www.teenvogue.com/story/megan-thee-stallion-sailor-moon-summer-sonic-2022
※7:https://www.pinknews.co.uk/2022/08/22/rina-sawayama-summer-sonic-festival-lgbt-speech-marriage-equality/