高倉健がいたからこそ生まれた名優・草彅剛 “生き方”を滲ませた『新幹線大爆破』で向き合う演技
草彅剛主演のNetflix映画『新幹線大爆破』が、4月23日より配信スタートした。4月24日21時から開催されたウォッチパーティーには草彅も参戦。ファンとともにリアルタイムで鑑賞しながら、X(旧Twitter)で感想をポストするひとときを過ごすなど、大いに盛り上がりを見せている。
草彅にとって、この『新幹線大爆破』は、いくつもの縁が積み重なって出来上がった特別な作品だ。その一つが、メガホンをとった樋口真嗣監督との縁。草彅と樋口は『日本沈没』(2006年公開)でタッグを組んだ後も友情を育み、「いつか、またいっしょに」と言い続けてきた仲だった。しかし、次々と代表作を更新していく草彅に、樋口監督の心境としては「これ以上の作品をお願いしたい」というハードルがどんどん上がってしまい、気づけば18年も経ってしまったのだと、対談インタビューで明かされている(※1)。
変化の激しいエンタメ業界において、18年という時の流れは相当なもの。実際、草彅を取り巻く環境は18年前とは大きく異なる風景になった。それでも、こうして「いつか、また」という“縁”が途切れなかったのは、それぞれが地道に取り組んできた中で重なった奇跡的なタイミングのように思える。
そうして満を持す形で樋口監督が草彅にオファーしたのが、1975年に公開された高倉健の主演作として知られる『新幹線大爆破』のリブート版というのも不思議な巡り合わせを感じる。高倉といえば、草彅にとって俳優人生に欠かせない「恩師」とも呼べる人。高倉との縁を引き合わせたのは、草彅がどん底を見た2009年のことだった。仕事のスケジュールがすべて白紙になるなど、泥酔騒動で大変な事態になってしまったその最中に、事務所にまでわざわざ足を運んで、草彅へ手紙を届けにきたのが高倉だった。それまで交流がなかったという草彅と高倉。なぜ、そこまでして高倉が草彅に寄り添ったのか。その理由は、映画『あなたへ』(2012年公開)を観返すことでわかるような気がした。
『あなたへ』は、高倉演じる倉島英二が亡き妻から届いた「故郷の海に散骨してほしい」という絵手紙をもとに、富山から長崎までワンボックスカーで1人旅をする様子を描いたロードムービー。草彅は、その道中で出会う青年・田宮裕司を演じた。日本中を飛び回って物産展でいかめしを売る田宮は、車が故障をしたのをきっかけに倉島と知り合うのだ。ちょっぴり無遠慮なところがありながらも、それでいて憎めない性格の田宮。あれよあれよという間に、いかめしの仕込みまで手伝わされることになる倉島がなんとも微笑ましく描かれていた。無邪気な性格に見える田宮だが、彼は彼なりに深刻な悩みを抱えていることも描かれる。それでもこれからを生きていくであろう若者の田宮は、人生の末路を見つめながら1人旅をしていた倉島にとって、止まっていた空気に新たな風をフッと吹き込んでくれるような存在だった。もしかしたら、それは高倉にとって、草彅という若き才能を見つめる眼差しそのものだったのかもしれない。
実はこの役、高倉が「この役は草彅くんがいいんじゃないか」とオファーを後押ししたのだというエピソードが、2024年5月19日放送『日曜日の初耳学』(TBS系)で語られている。そして、現場では高倉から「この役は草彅くんにはまだ小さいんだ」「もっと大きな役をあなたは演じていくんだよ」という言葉もあったとも。さらに、高倉から学んだこととして「生き方が大事」という話もあった。「演技のテクニックより、日常の中からたくさんの人の大事な感情が拾える」――そのアドバイスが、台本を読み込み過ぎずに取り組むスタイルになったと振り返った草彅。そんな人生の転機を経て、撮影現場ではもちろん、それ以外の日にも「どういうふうに自分と向き合って僕は今日1日過ごしているのかな」と地に足をつけて生きることを意識し、毎日高倉のことを考えているのだと明かしていた。
また、“健康つよぽん”の異名で知られる草彅が体調管理を徹底しているのも、高倉の影響が強い。ロケ先で朝食を食べながら、高倉がミルで挽いたブラックコーヒーを飲みながら、「俳優は体が元気じゃないと、ダメだよ。体に負荷がかかる時には自分でちゃんと体調管理することは大事なんだ」と話してくれたという思い出話もインタビューで明かしていた(※2)。