マシン・ガン・ケリー、ヤングブラッド、トラヴィス・スコット……「ロック回帰」&「新境地への意欲」感じる必聴の5曲
こんにちは、ノイ村です。
今回の新譜キュレーションの前半では、徐々に気配を見せる「ロック回帰」の動きに着目しております。私自身、子どもの頃はMy Chemical Romanceなどのゼロ年代のロックに夢中になっていたので、そういったバンドへのリスペクトを捧げながら、若い世代から支持を集めるミュージシャンの様子を見ていると非常に感慨深いものがある次第です。
ゼロ年代にルーツを持つラッパーが鳴らす“最新型ポップパンク”
Machine Gun Kelly feat. Halsey「forget me too」
ラッパーのマシン・ガン・ケリーについて偏見を抱いている人の数は、決して少なくないかもしれない。だが、今の彼は間違いなく「メインストリームでのロック復権」における最重要人物である。トラヴィス・バーカー(Blink-182)とタッグを組んだ最新作『Tickets to My Downfall』は、自身が影響を受けたParamoreやFall Out Boy、そしてBlink-182といったバンドへのリスペクトに溢れたキャリア初のポップパンクアルバムだ。一見すると時代遅れにも見えるが、なんと本作は自身初となる全米アルバムチャート1位を獲得している。
本作収録の「forget me too」は、軽快で小気味良いギターリフと力強いドラミング、彼とゲストボーカルのホールジーが歌うポップなメロディの掛け合いが胸を掴むナンバーで、新たにポップパンクの名曲群に名を連ねるであろう曲だ。一方、吐き捨てるような歌声の気持ち良さにはラッパーとしての確かなキャリアも感じ取れ、あくまで声とリズムをしっかりと立たせるミックスや楽曲構成からは、今のポップシーンをしっかりと意識していることがわかる。そう、あくまでこの音楽性はルーツを元に、彼の音楽性を進化させた結果であり、だからこそ今の若い世代の支持を集めているのだ。
現代へ受け継がれる“エモ”
YUNGBLUD「god save me, but don't drown me out」
USにおけるゼロ年代リスペクトの象徴がマシン・ガン・ケリーであるとするならば、UKではヤングブラッドがその役目を担っている(両者は2度も楽曲で共演している戦友でもある)。彼が影響を受けたアーティストはThe Beatlesからエミネムまで、その音楽性が示す通り多岐にわたる。ただ、その中でも絶大な影響を受けたと語るのは、ゼロ年代ポップパンクの代表的存在、My Chemical Romanceだ。怒りや不安に寄り添う彼らの楽曲に救われたヤングブラッドは、今度はそれを自らの声で表現しようとしている。
本楽曲は、そのタイトル通り、なにもかもがどうしようもなくなってしまった現状を嘆き、神に救いを求めながら、それでも自分自身という最大の敵に負けまいと夜を過ごす様子を描いたエモーショナルで力強い楽曲だ。彼の魅力である喉から絞り出される儚く切ない歌声に、ギターストロークの音色が優しく寄り添う。今やUKの若手筆頭格へと成長した彼は、かつて憧れた存在と同様、若い世代を勇気づけるヒーローとなっている。
大ヒット曲を横目に、90年代とかつての自分に想いを馳せる
beabadoobee「Worth It」
ラッパーのPowfuによる「death bed (feat. beabadoobee)」で一躍時の人となったbeabadoobee。同楽曲の原曲である「Coffee」を筆頭に、儚くも優しいベッドルームポップがbeabadoobeeの魅力の一つだが、今の彼女は寝室から抜け出し、ディストーションペダルを踏み、より力強い音楽を鳴らしている。
「Worth It」は轟音の中で夢を見るようなバンドサウンドと、優しくも甘い彼女の歌声のコントラストが魅力的な楽曲。その音楽には彼女自身が幼少時代に親しんでいたというThe Smashing PumpkinsやSlowdiveといった90年代のオルタナティブロックの影響を明確に感じ取ることが出来る。だが、歌っている内容は10代の頃に経験した自身の不貞というパーソナルなもので、喜びや興奮を感じる一方、過去の自分や本来の恋人の姿が脳裏をよぎり、混乱へと落ちていく様子を赤裸々に描いている。音楽性は変わっても、彼女の自然体な魅力は変わらず残っている楽曲だ。