リナ・サワヤマ、マネスキン、ヤングブラッド……海外アクトがサマソニに残した、型に縛られず生きるメッセージ

 先日8月20日、21日、無事に3年ぶりとなる開催を終えた『SUMMER SONIC 2022』。国内外のアーティストが集結するだけではなく、最新の音楽シーン、特にポップミュージックのメインストリームを見事に切り取ったラインナップは、まさに「サマソニらしさ」に溢れたものであり、多くの音楽ファンが久しぶりとなるこの祝祭を楽しんでいた。

 ポップミュージックのメインストリームを切り取るということは、その時代において何が求められているのか、何が支持されているのかを示すことを意味する。例えば、会場内でもスクリーンに映し出されていた過去のサマソニのヘッドライナーを見ていると、2009年のビヨンセや2010年のジェイ・Z、2017年のカルヴィン・ハリスに象徴されるように、その年のサマソニのことだけではなく、その年における音楽シーンの様子も併せて蘇ってくるだろう。サマソニに参加するということは、単純にお目当てのアーティストのライブをまとめて楽しめるというだけではなく、今の音楽シーン(のある側面)をその身をもって体感するということでもある。

固定概念から自由になることを訴えるリナ・サワヤマ、マネスキン

 今年のサマソニに参加する中で印象深かったのは、決して少なくない数のアーティストが、楽曲はもちろん、言葉やファッションなど様々な手段によってステージ上からメッセージを発信していたことだ。特に大きなハイライトとなったのは、SNSやメディアなどでも話題となっていた、新潟県出身でイギリス・ロンドンをベースに活動しているシンガーソングライター、リナ・サワヤマがライブの終盤で発したこの言葉だろう。

「私はバイセクシュアルで、それを誇りに思っています。でも、私がここ(日本)で同性婚をしようとしたら、できないのです。なぜかというと、日本では禁止されています。G7の中でも唯一、一つだけ、一国だけ、そのprotection(保護)がないような国です。LGBTの差別を禁止する法律がない国。同性婚のprotectionのない国です。I’m proud to be Japanese(私は日本人であることを誇りに思っている). だけど、これはすごく恥ずかしいということです。私と私の友達、Chosen Familyを受け入れて、平等な権利を持つべきだと思う人たちは、皆さん、私たちと、私たちのために戦ってください。LGBTの人たちは人間です。LGBTの人たちは日本人です。愛は愛。家族は家族です。一緒に戦ってください。よろしくお願いします」(筆者書き起こし、一部調整)

 「Chosen Family」とは、「選ばれた家族」の意味を持ち、血の繋がりや法的な関係性はなくとも、家族のような深い絆を築き、愛情や安らぎを感じることができる、互いに支え合うことができるコミュニティのことを指しており、長らくLGBTQ+のコミュニティなどを中心に使われてきた言葉だ。リナはこの言葉をタイトルに据えた楽曲(「Chosen Family」。アルバム『SAWAYAMA』収録)を発表しており、このコミュニティを、そしてそこにいる一人ひとりを讃えている。今回のスピーチも、そういった想い(と問題を抱えている現状)をコミュニティの外側にいる人々にも伝え、より強くサポートを続けていくために出てきた言葉なのだろう。

〈血縁関係がなくても繋がることはできる/遺伝子や名字を分かち合う必要もない/あなたは、あなたこそは/私にとっての選ばれた家族(We don't need to be related to relate/We don't need to share genes or a surname/You are/You are/My chosen/Chosen family)〉(「Chosen Family」より。筆者訳)

Rina Sawayama, Elton John - Chosen Family (Performance Lyric Video)
Rina Sawayama - This Hell (Official Music Video)

 このリナのパフォーマンスから数時間後には、昨年、ロックバンドとして異例となる世界的な大ブレイクを果たしたイタリア出身のマネスキン(Måneskin)が出演し、スタジアムを埋め尽くした観客を前に一切物怖じすることなく、エネルギーに溢れたパフォーマンスを披露していた。

 この日のセットリストを締めくくった、代表曲「I Wanna Be Your Slave」における、人間の持つ様々なセクシャリティやアイデンティティを一人称によって同居させる構成や、「STATO DI NATURA」における家父長制への批判、多くのインタビューにおいて安易なカテゴライズを拒否する姿勢を示していることなどから分かる通り、マネスキンは何かしらの型に当てはめられることを徹底的に拒絶し、その怒りを(ただでさえ強靭な)パフォーマンスのエネルギーへと変えていく。それはステージ上のファッションにおいても同様であり、全員が艶やかなメイクで自らを彩り、全員がド派手でクールでセクシーな衣装を身に纏い、暑くなればそれを脱ぐ。そこには「らしさ」や「あるべき姿」は存在せず、それ自体がバンドによるメッセージとなっていた。

Måneskin|マネスキン - 「I Wanna Be Your Slave」 (日本語字幕ver)

 余談だが、メンバーのヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba)は先日の『MTV Video Music Awards 2022』のパフォーマンスでも途中でトップレス姿となり、検閲のために不自然なカメラワークで放送されてしまうという出来事があったが、恐らくあえてやったのだろう。

Måneskin Performs "Supermodel" | 2022 VMAs

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