連載「Signal to Real Noise」第八回:Doul
Doul、世界に向けて発信する10代のメッセージ そのボーダレスな音楽的変遷を辿る
Spotifyが注目する次世代アーティストサポートプログラム『Early Noise』。2021年を迎え、世界3億人以上の音楽リスナーに世界各地の多様な新進アーティストをピックアップし紹介するグローバルプログラム「RADAR」との連携を強化したことを受け、『RADAR:Early Noise』と名称が変更された。
リアルサウンドでは、『Early Noise』から継続する形で『RADAR:Early Noise』とコラボした連載企画「Signal to Real Noise」を展開。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、手練の音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材する。
2021年を迎えて1回目となる今回は、渡辺裕也氏によるDoulへのインタビューをお届けする。(編集部)
第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽作り
第四回:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方
第五回:世界を見たShurkn Papに聞く、地元から発信し続ける理由
第六回:竹内アンナに聞く“独特のハイブリッド感”の原点
第七回:海外公演も成功、気鋭の3ピースバンド TAWINGSインタビュー
2020年にシングル「16yrs」でデビューして以来、そのハイブリッドな音楽性と鮮烈なパフォーマンスで急速に注目を集めているアーティスト、Doul(ダウル)。今回のインタビューでは、現在18歳のDoulにこれまでの音楽的な変遷と、これからの野心を語ってもらった(渡辺裕也)。
私が歌うとアリアナ・グランデの曲もDoulになる
ーーこれまでに発表された一連の楽曲を聴いて、きっとDoulさんはジャンルや年代にとらわれず、様々な音楽と接している方なんだろうなと思いました。今日はThe Rolling StonesのTシャツを着てますね。
Doul:はい(笑)。たしかに自分の好きな音楽がどの年代の曲なのか、意外とよくわかってないし、実際にジャンルや年代で音楽を分けてないんです。それよりもサウンドと歌詞と人間性の方が大切で。
ーーでは、Doulさんはこれまでどんな音楽に触れてきたのでしょうか?
Doul:まず生まれる前のことから話すと、胎教でエミネムを聴かされてました(笑)。最初に好きになったのは、Linkin Parkですね。それもお父さんが車の中でずっと流してた影響なんですけど、Linkin Parkは今に至るまでずっと聴いてるし、自分の軸になってる音楽だと思います。
ーーLinkin Parkは異ジャンル同士を融合させたバンドですよね。確かにそれはDoulさんの音楽性にも通じると思います。
Doul:まさに。それからBIGBANGやSUPER JUNIOR、東方神起あたりをきっかけに、K-POPもよく聴いてました。EDMやダンスミュージックにもたくさん触れていましたし、特にDJ SNAKEは大好きですね。あと、スケボーでハーフパイプに乗るときはレゲエを聴いたり。
ーースケートカルチャーの影響もあるんですか?
Doul:あります。お父さんや叔父がずっとスケボーやサーフィンをやっていた人なので、私にも小さい頃からそういうカルチャーはずっと染み付いてて。あと、Nirvanaが大好きです。そこからオールドロックも掘っていったんですけど、自分がいちばん聴いてきたのは、多分90年代から00年代にかけての音楽だと思う。それは音楽だけじゃなくて、ファッションにおいてもそうですね。90~00年代には自分だけの音やファッションを生み出していた人がたくさんいるし、それこそNirvanaの音って、聴けばすぐにNirvanaってわかるじゃないですか。私は人と違うこと、何か新しいことをやろうとしているアーティストが好きだし、そういう人の生き方に共感するんです。
ーーそこから自分で音楽をやるようになったのは、どんなきっかけで?
Doul:小学6年生の時に、お小遣いを貯めてアコースティックギターを買ったんです。でも、最初は全く弾き方がわからなくて、一年間くらい放置しちゃって。さすがにそれじゃまずいと思い、練習して初めて弾けるようになった曲が、エリック・クラプトンの「Tears In Heaven」。そこから弾き語りが楽しくなって、毎日ギターを練習するようになりました。
ーー最初に手に取ったのは、アコギだったんですね。
Doul:とにかくNirvanaが好きで、それこそカート・コバーンの曲ってアコギで弾いてもかっこいいじゃないですか。自分にもそれが歌えたらなと思うようになって、それでアコギを手に取ったんです。
ーーちなみにNirvanaで一番好きな曲をひとつ挙げるなら、どの曲を選びますか?
Doul:「About A Girl」か「Something in the Way」かな。未発表曲ですけど「Sappy」も大好きですし、Nirvanaはあまりにも好きな曲が多すぎて、ちょっと選べないです(笑)。
ーーDoulさんの楽曲も弾き語りから生まれるんですか?
Doul:そうですね。14歳のころから自分でも曲を作るようになったんですけど、最初に作ったのはどんな曲だったかな……たしかその時は「自分らしくいたい」という気持ちがすごく強くなってたので、歌詞もそういう内容だったと思います。「自分の生きたいように生きる」みたいな曲だった気がする。
ーーその当時から楽曲は英語詞で作っていたんですか?
Doul:はい。日本語の音楽をまったく聴いてこなかったので、自分で歌っていて気持ちいい曲にしようとすると、自然と英語になるんです。日本語の作品に触れてこなかったのは、音楽だけじゃなくて映画もそうですね。映画は毎日なにかしら観ているんですけど、日本の映画はまったくわからなくて。
ーー内容としては、主にどんな映画を好むんですか?
Doul:基本的にはアクション映画ばかり観てます。こうして音楽をやるようになるまでは格闘技でプロを目指してたので、アクション映画の銃撃やナイフ術が大好きです(笑)。今でも毎日筋トレしてるし、自分の強さもわかってたので、格闘技でプロになる自信もあったんですけど、音楽への愛情がそれを上回ったというか。
ーー格闘技の経験はDoulさんの音楽にどんな影響を与えていますか?
Doul:主に精神面ですね。自分を追い込むのが好きだし、格闘技をやっていたからこそ、追い込んだ先に何かあるってことも、逆にどれだけ努力しても結果が必ず出るわけではないってこともよく知っているので、そこを学べたのは大きいです。自分を信じてコツコツ努力する大切さは音楽にも生きてると思うし、それを知ってるからこそ歌えていることもきっとあると思います。音楽にしても、格闘技にしても、どれだけ自分を信じられるかが大事なんじゃないかな。
ーー今日はレコーディングスタジオにお邪魔してますが、プロデューサーのURUさんとは普段どんなやりとりを交わしているのでしょうか?
Doul:このスタジオで一緒に曲を作るときは、まずはお互いのイメージを伝えながら「じゃあ、これはどう?」みたいなやりとりを何度も交わしてます。たとえばドラムとベースが出来上がった段階でメロディが浮かんできたら、その場でデモを録音したり、そうやってお互いのアイデアを投げ合いながら膨らましていく感じですね。
ーービートから曲を作り始めることもあるんですね。
Doul:そうですね。コードがなくてもビートがあればラップできますし。
ーーラップスキルはどのようにして身につけたんですか?
Doul:ラップに関しては単純に小さい頃からずっと聴いてたので、特に難しいと感じたこともないし、普通に誰でもやるものだと思ってました。今でも不意にフリースタイルをやることだってできますし、基本的にはどんな曲だろうとラップのパートは入れたいなと思ってます。そこは自分のスタイルと言ってもいいのかもしれないですね。
ーー「The Time Has Come」からはMassive Attackを連想しました。Doulさんには90年代ブリストルサウンドの影響もあるのかなと思ったのですが、いかがですか?
Doul:なるほど。「The Time Has Come」はベックの「Loser」みたいなイメージで作り始めて、結果的には全然違う感じになったんですけど、たしかにUKの音楽はめちゃくちゃ好きだし、Portisheadっぽいとは何度か言われたことがあります。もしかすると声の感じでそう受け取られるのかもしれないですね。私が歌うと、アリアナ・グランデの曲もちゃんとDoulになるので(笑)。
ーー4月21日に配信された新曲「We Will Drive Next」のサイケデリックな導入からハードなギターサウンドに切り替わる展開もかっこよかったです。あの曲はどういうアイデアから生まれたんですか?
Doul:モード学園のCMに起用される曲だったので、まずCMのイメージ映像を見せてもらってから作りました。浮遊感のある映像からイメージを膨らませていったんですけど、後半からまったく違うサウンドになっていくので、この曲はぜひ最後までフルで聴いてほしいですね。メロディも耳に残るし、自分でも面白い曲になったなと思ってます。
ーー「Howl」はちょっと80年代っぽい、とてもファンキーな曲ですね。
Doul:そうですね。とはいえ「Howl」は特に狙ってディスコっぽい曲を作ろうとしたわけじゃなくて、元々ピアノからできたんです。自分としては新鮮な感覚で作った曲ですけど、自分より上の世代の人たちはこの曲に80年代的な懐かしさを感じるみたいで、その反応もまた面白いですよね。