連載「lit!」第142回:レディー・ガガ、チャペル・ローン、JENNIE……エキサイティングなグローバルポップを象徴する5作

 この「lit!」は基本的に直近1カ月以内くらいの新作を扱うことになっているが、現在大ヒット中のDoechii「Anxiety」が元々は5年前に公開された楽曲であるように、近年のポップシーンのトレンドは必ずしも新曲に限らない場面が増えてきていて、意外な楽曲が予想もしない形でブレイクすることが珍しくない。先日、いつものようにSpotifyのUKチャートを眺めていると、グレイシー・エイブラムスやケンドリック・ラマー、サブリナ・カーペンターといった馴染みの顔ぶれに加えて、20年前にリリースされたはずのイモージェン・ヒープ「Headlock」が目に留まった(記事執筆時点で30位)。

 「なぜ?」と思って調べてみると、ヒットの鍵となったのは昨年リリースされたインディーズホラーゲーム『Mouthwashing』(傑作!)。同作に触発されたファンが制作した二次創作アニメーション作品がTikTokやYouTubeで話題を集め、その結果として楽曲自体の人気も高まっていったのだった。

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 何より興味深いのは、『Mouthwashing』自体はいわゆる大ヒット作品ではないということ(カルトヒットと呼ぶのが適切だろう)。しかも、その二次創作が起点なのだから、音楽シーンへの影響力はかなり小さいと考えるのが自然だろう。しかし、その結果は書いた通りで、3月には自身初となる全米チャート入りを達成(※1)し、今もたくさんの人々が「Headlock」の魅力を発見している。いよいよヒットを予測するのが不可能であることを象徴するような出来事だが、だからこそ、個人的には今こそがポップミュージックの最もエキサイティングな時代なのではないかと思ったりもする。

Lady Gaga「Killah」

 代表曲「Bad Romance」のメロディを引用した「Vanish Into You」や、〈ga-ga〉を含む咆哮のようなフレーズの反復が印象的な「Abracadabra」に象徴されるように、最新作『Mayhem』におけるレディー・ガガが『The Fame Monster』や『Born This Way』といったキャリア初期のスタイルを再訪していることは間違いない。だが、重要なのは、それが決して彼女が最もセンセーションを巻き起こしていた時期への回顧や、ファンサービスといった単純なものではないということだ。自身のルーツであるマイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイ、プリンスといった偉大なるポップアクトと、表現の軸を形成したボールルームカルチャーからの影響を当時のトレンドであるエレクトロポップへと昇華した結果こそが初期の楽曲群であり、現在のレディー・ガガは長年のキャリアを通して培った圧倒的な表現力と、(ついに手に入れた)自身をコントロールする力をもって、これらのルーツと再び対峙しているように思える。

 『Mayhem』リリース直後の『Saturday Night Live』で披露された「Killah」は、まさにそんな「今のレディー・ガガ」を完璧にとらえたキャリア屈指のパフォーマンスと呼ぶべきだろう。プリンスを想起させるインパクト抜群の衣装を身に纏いながらスタジオの床に寝っ転がって踊り、Gesaffelstein(祝!サマソニ出演)が構築した脈打つようなグルーヴと一体となってステージ上で暴れ、最後には衣装そのものを引き裂いて内なる自分を解放する。徹底的に狂ってみせながらも、隙がないほどにルーツへのリスペクトに満ち溢れ、最後の一瞬まで鋭い眼差しが緩むことはない。この“完璧に統率されたカオス”(≒Mayhem)は、紛れもなく今の彼女だからこそ描くことのできる到達点だ。

Lady Gaga - Killah (feat. Gesaffelstein) [Official Audio]
Lady Gaga - Killah (Saturday Night Live/2025)

Chappell Roan「The Giver」

 2024年を代表するブレイクアーティストとなったチャペル・ローン。今なおロングヒット中の「Good Luck, Babe!」に続く待望の新曲は、〈And other boys may need a map / But I can close my eyes / And have you wrapped around my fingers like that(他の男なら地図が必要かもしれないけれど/私は目を閉じても/あなたを指の上で転がせる)〉というラインが示すように、クィアなテーマはそのままに(ミズーリ州で育った自身のルーツでもある)カントリーの要素を大胆に取り入れた“レズビアン・カントリー・ソング”(本人談)だ。昨年9月に出演した『Saturday Night Live』ですでに披露しているため、ファンにとっては新曲感が薄いところがあるのも実情だが、やっと音源化されたことでこの曲がラジオなどの色々なメディアで流れるようになるというのは、それ自体が痛快でワクワクする。

 一方で、カントリーの保守的なイメージを解体・再解釈するという試み自体は、『グラミー賞』の最優秀アルバム賞を獲得したビヨンセや、Shaboozey、Rina Sawayamaなどを筆頭に、それ自体が近年のカントリームーブメントの原動力の一つとなっており、本楽曲もそうした流れの一つとして捉えることができるだろう。さらに、カントリーロックの堂々とした雄大なサウンドを取り入れたことによって、従来のバブルガムポップ路線から楽曲のスケールを大幅に拡大しているというのも大きなポイントだ。ライブ規模の拡大に伴い、楽曲側にもスケールの拡大が求められるというのはブレイクに付随する課題の一つだが、盟友のオリヴィア・ロドリゴがロック路線を強化することでライブでの評判を確固たるものにしたように、今回の「The Giver」(そして、後に控えるアルバム)もライブでこそ、その真価を発揮するのではないだろうか。

Chappell Roan - The Giver (Official Lyric Video)

JENNIE「Like JENNIE」

 これはソロ活動に限らず、直近のBLACKPINK本体の活動にも言えることだが、『コーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)』のヘッドライナー出演に象徴されるUSでの大きな成功に伴い、その作品がどんどんUSのメインストリーム寄りになっていったことに対して、確かなクオリティと成功に喜びを感じる一方で、ちょっとした寂しさを感じていたBLINK(BLACKPINKファンの総称)は決して少なくなかったのではないだろうか。

 だからこそ、近年のUSのトレンドとは一線を画した過剰で硬質なトラック(250(イオゴン)もリスペクトを公言するなど、2010年代以降のK-POPに大きな影響を与えたDiploのチームによるプロデュース)をバックに、韓国語を織り交ぜたラップ(ライティングにはZICOが参加)で約2分を一気に駆け抜けていく本楽曲は、まさしく「これを待ってました!」と言いたくなる仕上がりだ。「I’m JENNIE」などの生成AIによって作られたJENNIE“風”の楽曲や過去のゴシップに群がる人々といったノイズに対して真正面から喧嘩を売りに行くリリックから、近年のK-POPシーンのダンス面を支えるWe Dem Boyzがコレオグラファーを務めたMVに至るまで、これでもかと「K-POPらしさ」、「JENNIEらしさ」を世界に向けて叩きつけている。そんな突き抜けた本楽曲が、意外にもソロ単独でのSpotifyグローバルチャート週間最高位(本稿執筆時点で10位)を記録しているというのは、実は多くの人々がこの曲のような「他にはない何か」をJENNIE(あるいはBLACKPINK)に求めていたということの表れでもあるように思える。LISAとともにソロ・アーティストとしてカムバックを果たすコーチェラのステージも楽しみでならない。

JENNIE - like JENNIE (Official Video)

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