Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方

Mega Shinnosukeを直撃

 Spotifyが注目する、ニューカマー発掘プレイリスト『Early Noise Japan』と、リアルサウンドのコラボによる連載企画「Signal to Real Noise」。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、手練の音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材するという同企画の第四回は、柴那典氏による、Mega Shinnosukeへのインタビューをお届けする。(編集部)

第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽を作り

 2000年生まれ、18歳のクリエイター Mega Shinnosuke。筆者がその名を知ったのはSpotifyのプレイリストがきっかけだった。昨年11月にリリースされた初のソロ作品『momo』に収録された「桃源郷とタクシー」をまず聴いて、人懐っこいメロディとラップが自然体で同居しているそのセンスに驚いた。コーラスに参加しているAAAMYYYはInstagramのDMで声をかけたのだという。

 今年にはSpotifyの『Early Noise 2019』に選出、私立恵比寿中学への楽曲提供など注目のニューカマーとして知名度を広げることとなった彼。6月5日には初の全国流通盤『HONNE』がリリースされる。

 初のインタビューで明らかになったのは、奔放で怖いものなしで各方面の音楽を縦横無尽に吸収しまくっている、その素顔だった。(柴那典)

「サブスクに登録してない人に『マジで曲作る気あるの?』って思っちゃう」


――東京に出てきたばかりと聞きましたけれど。

Mega Shinnosuke(以下、Mega):本当にこの間です。4月1日からです。

――もともと福岡でバンドをやっていたんですよね?

Mega:最初はバンドという形で、周りのそこそこ弾ける友達を集めてやっていました。もともと僕はオリジナル曲をやろうと思ってて。曲はほぼ僕が作ってたんで今とあんまり変わらないんですけど、高校生が他の音楽家に「ソロやりたいから弾いてよ」っていうのは難しいじゃないですか。

――バンドを組もうというよりも前の段階で、曲を作りたいというのがあった。

Mega:そうですね。音楽を聴き始めたきっかけは、中2の時にTSUTAYAで借りたRADWIMPSの『×と〇と罪と』っていうアルバムで。それを聴いて「音楽っておもしろいな」って思ったんですよ。それまでは『イナズマイレブン』の主題歌くらいしか知らなかったんですけど、そこで初めてロックというものを知って。そこから音楽に興味を持った感じですね。

――RADWIMPSのどういうところに惹かれたんでしょうか。

Mega:今でももちろんRADWIMPSは好きなんですけど、失礼な言い方をすると、それまであまりに音楽を知らなかったから好きになったっていうのはあったかもしれません。例えばそれが椎名林檎さんだったり、他のアーティストでも変わらなかった気はするんですけど。

――そこからいろんな音楽を聴き漁るようになった、と。

Mega:でも、なんだかんだ言って高校2年生まではほとんど聴いてなくて。結局ハマったのは、RADWIMPSと星野源さんと椎名林檎さんとBIGBANG。その4つくらいしか聴いてなかったですね。東京事変と、そここから派生してペトロールズの界隈とか、ちょろっと聴きましたけど。で、曲を作るきっかけになったときに集めたメンバーの一人がSpotifyで音楽をめっちゃ聴いてて。それでSpotifyに入ったのをきっかけに、ガーッと聴くようになったという感じです。

――だいたい何年前くらいの話ですか?

Mega:曲を作り始めたころの話なので、僕が高校2年生の秋ーー2017年の秋くらいです。その時に「ほんと、サブスクってすげえな!」って思いました。福岡でバンドやってるバンドマンで、たまにサブスクに登録してない人がいるんですけど、「いや、しろよ!」「マジで曲を作る気あるの?」って思っちゃうくらいすごいなって。ライブハウスでCDを買いたいというならまだわかるんです。でも、単純に音楽を聴いてない人とは「もう話せないな」って思っちゃう。

――曲を作ろうと思ったきっかけは?

Mega:福岡に、友達を通じて一瞬ふわって入った界隈があって。高校2年生のときに先輩に誘われて文化祭に出たんですよ。その誘ってくれた先輩が、地域のバンド界隈の人で。それで「オリジナルバンドやってるから見にきて」って言われて、見に行ったらその先輩のバンドがくそダサかったうえに、現場の身内ノリがすごくて。正直、大したことないのにお互いに褒めあったり、性格的にもキツい人が多くて、それを見たときに「うわ、つまらないな」って。「俺が作ったほうが絶対にいい曲できる」って思ったのがきっかけだったんです。

――なるほど、自分が作ったほうがいいと。

Mega:なんなら「ここを抜けて大人とライブしたいな」と思って作ったのがきっかけだったんで。だから最初からちゃんとしたものを作りたかったんです。最初に作った「O.W.A.」は、周りにプロのエンジニアがいなかったんで、大阪にいるエンジニアさんにTwitterでDMを送って、ミックスをお願いしました。

――そのときの名義はMega Shinnosukeではなかった?

Mega:最初は違いましたね。Fow two.というバンドでした。2年間しかやらないから「Fow two.」という名前にしたんです。

――「O.W.A.」に関しては、80sのファンクっぽい感じのサウンドですが……。

Mega:僕、ファンクを知らなくて。曲ができた段階で「これファンクだよ」って言われて、「ファンクなんだ」って知ったくらいです。本当に「ゲロッパ」しか知らなくて(笑)。で、歌詞を書いたんですよね。でも、歌詞を書くのも初めてだったから、日常的に思ってることを書こうと思って。周りのやつがダサいから「ダセえ」って書こうと思って。

――これをYouTubeに公開したところ、多く再生されたと。自分が思ってるより遠くに届いた感触でしたか。

Mega:完全に予想外ですね。誰にも届かない前提でYouTubeに上げたんで、本当にこんな風になるとは思ってなかった。正直、周りで自分がダサいと思っている人たちは、頑張って業界の情報を引っ張ってきて話しているんですけど、YouTubeが引っかかってこんな風になるなんて「聞いてなかったぞ!」という感じでしたね。

――なるほど。とすると、「O.W.A.」っていう曲が自分の想定してないリスナー、端的にいうと音楽業界の人に届いたというのは、手応えや自信につながった?

Mega:それはもちろん。東京に行って、ご飯をめっちゃ食べさせてもらったんで、すごいなと思いました(笑)。

――Mega Shinnosuke名義でちゃんと音楽をやっていくという前提で最初に作った曲はどれなんですか。

Mega:「桃源郷とタクシー」ですね。

――この曲はどういうきっかけで作ったんですか?

Mega:業界の人から声がかかったし、音楽で生きていかないかという雰囲気があったから、じゃあやるかと思って書いた曲です。ちょうどそのとき、福岡の知り合いでレーベルをやってる人から「お金出してあげるから曲を出してみなよ」って言われて出したのが『momo』っていうミニEPなんです。

――曲のモチーフは?

Mega:桃源郷っていう理想郷を目指しているなかで、タクシーに乗ってショートカットする人もいるけど、その人たちはいろんな出会いを放棄したことになるから、そんなことを羨むくらいなら自分で自分の理想を描いたほうがいい。嫉妬してる人に対して、嫉妬してる時間は無駄だぞという意味を込めた曲です。僕は高2のとき、専門学校に行くと言って高校を中退したんです。その時に、変に「学校に来いよ」っていうヤツがいたんですけど、そういう人に対して「くだらねえな」っていう曲でもあるというか。

――続く「狭い宇宙、広いこの星」はどのようにして生まれたんですか。

Mega:この曲の歌詞としては、RADWIMPSの野田(洋次郎)さんが「なんちって」って曲で〈俺もなんだかんだっていつもビビッてんです〉って歌詞を書いていて、そういう感覚っていいなと思って。ステージに立ってる人もなんだかんだ言って人間だし、同じ立場にいるんだと伝えたかったというか。この曲は「宇宙に逃げ出したいほどの現実逃避」というサブタイトルで、現実逃避を誰しもすることがあるよね、という曲でもあるんです。

――サウンドの面ではそれぞれどんな感じだったんですか。

Mega:僕はあんまり音楽のことがわからないんですけど、僕なりに説明すると「桃源郷とタクシー」はサビからだんだん固まっていきました。サビはすーって流れるようなメロディじゃないですか。その感じを延々と続けるのは面白くないなと思ったので、Bメロはトラップの感じを意識してみたんです。

――ああ、わかります。

Mega:ですよね。フリースタイルバトルも好きなんですけど、僕の同世代の百足とか藤kooSとかONO-Dとかがトラップのビートでラップをしている感じがすごく好きだったのもありますし、トラップって縦ノリなので、Bメロが変化球みたいに聴こえるのも面白いなと。ちなみに歌詞は、Aメロは僕が周りに対して不満を言ってるだけなんですけど、Bメロで「でも、不満を言っててもどうしようもないから現世で遊ぼうぜ」みたいな考えに変わっていって、サビで落ち着くみたいな流れにしています。

――たしかにBメロのところは、リズムが跳ねて符割りが三連符なので、バンドサウンドだけどトラップ以降の歌なんですよね。

Mega:そうそう。だから、本当はトラップやってるラッパーみたいに「エーイ!」って言いたいくらいです(笑)。

――そういう感覚の影響源がなんなのか気になります。

Mega:いや、僕としては何かを参考にしたとかはなくて。ふわーってしてるところから、ひゅってやったらぽーんってできるみたいな感じ。いつも困るのが、曲を作ってレコーディングするときにミックスの人に「参考にした曲を送ってください」って言われるんですよ。でもマジで何もないんで、いつもメンバーに聴いて「これ、なんか似てる曲ないですか」って言ってます。特に「O.W.A.」に関しては本当に何もないですね。そもそもファンクを知らなかったので。こういうループ的な曲って、リズムはLogicでパッて作っちゃうんですよ。それに対して歌ってるんですけど、基本僕はフリースタイルラップ、フリースタイルメロディなんですよね。それを何テイクか録って、次の日とかに聴いて「これが一番いいな」っていうものを採用したりするので。「本音」は弾き語りからできてるんですけど、これもコードだけ決めてiPhoneに録って、それを置いて流しながらフリースタイルで歌ってます。

――そうやって出てきたメロディに対して、いろいろハマるアレンジを探していくと、結果としてそれがファンクと呼ばれたりすると。

Mega:そうですね。でも、結局ジャンルの土台ってビート感なので、最初に僕が弾いたりドラムを打ち込んだりしたところでジャンルは決まっているような気がします。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる