連載「Signal to Real Noise」第六回:竹内アンナ
竹内アンナに聞く“独特のハイブリッド感”の原点「いまも音楽の境界線がない」
Spotifyが注目する、ニューカマー発掘プレイリスト『Early Noise Japan』と、リアルサウンドのコラボによる連載企画「Signal to Real Noise」。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、手練の音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材する。同企画の第六回は、森朋之氏による竹内アンナへのインタビューをお届けする。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】
竹内アンナの1stフルアルバム『MATOUSIC』が注目を集めている。「RIDE ON WEEKEND」(WOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』主題歌)、崎山蒼志がエレキギターで参加した「I My Me Myself」などを収めた本作。70〜80年代のソウル、ファンクから、現代的なハウス、エレクトロなどを取り入れたサウンドメイク、そして、リアルな体験をもとにしたリリック、洋楽的なメロディと日本語の響きを組み合わせたフロウなど、彼女の際立った個性が反映されている。踊るように飛び跳ねるギタープレイも、本作の聴きどころだろう。
ストリーミングサービスでも人気を獲得、さらにFM局などでも数多くのヘビーローテーションを得ている竹内アンナ。今回のインタビューでは、彼女の音楽的ルーツ、独創的なライブスタイル、アルバム『MATOUSIC』の制作などについて語ってもらった。(森朋之)
第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽作り
第四回:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方
第五回:世界を見たShurkn Papに聞く、地元から発信し続ける理由
「ジョン・メイヤーがSSWの概念を壊してくれた」
ーー1stフルアルバム『MATOUSIC』がリリースされました。リスナーのみなさんからの反響はどうですか?
竹内アンナ(以下、竹内):リリースされた直後からSNSにたくさんメッセージをもらったり、ツイートしてくださる方もすごく多くて、ビックリしました。これまでに3枚のEPを出しているんですが、アルバムをリリースしたことで私の存在を知ってくれた方も多くて。“こういう音楽をやってる人なのか”“こんな歌を歌ってるんだな”ということが伝わってくれたのかなと。
ーー竹内さん自身も3作のEPを通して、ステップアップできた感覚もあるのでは?
竹内:そうですね。今までのEPシリーズはいろいろな竹内アンナの表情を感じてほしくて、1枚ごとにいろんなトライをして作品ごとにサウンドもかなり変化させてました。ただ今回のアルバムでは「竹内アンナは音楽を通して、何を伝えたいんだろう?」「どんなサウンドを作りたいのかな」と向き合ってきたことで、今の私を詰め込めたかなって。インプットとアウトプットのバランスも良かったと思います。
ーールーツミュージックに根差しながら、現在進行形のサウンドも取り入れていて。竹内さんの音楽には独特のハイブリッド感がありますが、これまで聴いてきた音楽の影響も当然、反映されてますよね。
竹内:音楽的な影響は、母親が作っていたプレイリストが大きくて。母親は新旧、洋邦を問わず、何でも聴く人で、ごちゃまぜのプレイリストを作ってCDに入れてたんです。それを聴きながら育ったので、いまも音楽の境界線がないというか、古いものから新しいものまで、ジャンルを問わず好きになって。それは自分が作る音楽にも反映されていると思います。
ーー子どもの頃に、特に印象的だった曲は?
竹内:Earth,Wind & Fireの「September」ですね。楽しいときはもっと楽しくなるし、落ち込んでいるときに聴くと元気になれるし、怒ってるとき、悲しいときも「大丈夫」という気持ちにさせてくれる曲で。いろんな場面、シチュエーションに寄り添ってくれる音楽だったんですよね、私にとって。「September」は、音楽の原点ですね。
ーーギターを弾くようになったきっかけは?
竹内:小学校6年生のときに聴いたBUMP OF CHICKENです。それまで私は「洋楽しか聴かない」っていう生意気な子だったんですよ(笑)。でも、あるとき「カルマ」を聴いて、「たった3分半で、こんなに感動できるんや?!」と衝撃を受けて。藤原基央さんの声の良さ、バンドの世界観もそうだし、日本語の美しさに気づかされたことも大きかったです。そのときに初めて、「音楽をやる側に立ちたい」と思って、ギターをはじめました。
中学までは漠然と弾いてただけなんですけど、高校2年のときにジョン・メイヤーを知って。「No Such Thing」の弾き語りをYouTubeで観てーーおそらく彼が23歳くらいの演奏ですねーー「これ、ホントに一人で弾いてるの?」とビックリしちゃって。すごく鮮やかでカラフルな音だし、何回観ても指の動きがわからないくらい複雑なプレイで。声はスモーキーで甘くて、歌詞も10代だった私にもすごく共感できて、なおかつ「カッコいいやん!」っていう(笑)。自分が思っていたシンガーソングライターの概念を壊してくれたし、もっとギターを弾けるようになりたいという気持ちにさせてくれたんです。
それまでもギターは大好きだったし、相棒みたいな存在だったんですが、どちらかというと歌うためのツールとして捉えていて。ジョンは歌とギターがどちらも完全に確立されていて、それがすごくカッコよかったんですよね。「これだけ弾けたら、めちゃくちゃ楽しいだろうな」と思ったし、それ以来、さらにギターにのめり込みました。
ーーギターは独学ですか?
竹内:いえ、今も教えていただいている師匠みたいな方がいて。中3のときにライブハウスに出たことで、「プロとしてやっていきたい」と思って。それを師匠に伝えたら、「だったら、そういうレッスンをするし、僕もそのつもりで接する」と言ってくださって。ジョン・メイヤーみたいなギターが弾きたいと言ったら、ブルース、ジャズ、ブラックミュージックなどを教えてくれて、「完コピしなさい」と。ギターはもちろん、譜面の書き方、音楽理論、プロとしての礼儀も教えていただいて。怒られるたびに「そんなん初めてだし、わからんやん」と思ってたけど(笑)、厳しく、愛を持って教えていただからこそ、今があるんだと感謝してますね。
ーー地道な練習や勉強もあったと思いますが、それをやり遂げたモチベーションは何だったんでしょう?
竹内:負けず嫌いなんですよね。できないことが悔しいし、絶対にやってやろうと思うので。少しでもできるようになると楽しくて……。単純に“好き”で“楽しい”ということも大きいです。それはいまも同じだと思います。
ーー現在の竹内さんのライブのスタイルは、ギターの弾き語りだけではなく、ループ・ステーションやサンプラーも取り入れて、ダンスミュージック的な要素も加わっています。
竹内:新しいものを取り入れるのが好きなんです(笑)。きっかけになったのは、2枚目のEP(『at TWO』)に入ってる「Free !Free! Free!」。もともとエレクトロミュージックが好きだったんですが、それを思い切って取り入れてみたんです。いざライブでやることになったとき、ギター1本でも演奏できるんですが、思い描いていたサウンドを再現するためには、それだけでは足りないなって。何を加えればいいか考えて、RC-505(ループ・ステーション)を取り入れて。卓上に置けて、手元で操作しやすいんですよ。さらに数カ月前にサンプラーも入れて、いまの形になりました。といっても、完成形はないんです。トライ&エラーを重ねながら、どんどん変わっていくというか……。観ている人も楽しめるように、常におもしろいことをやりたいんですよね。
ーー確かに見た目にも楽しいですよね、竹内さんのステージは。
竹内:いきなりギターを置いて、サンプラーを操作し始めたり(笑)。オケを流すという選択肢もあったんですが、せっかくのライブなので、そのときだけの表現をしたくて。たとえばコール&レスポンスしていて、「もっと伸ばしたい」と思ったとき、(オケを流していると)尺が決まっているからやれないじゃないですか。あくまでもライブは自由でありたいし、お客さんの反応によって、リアルタイムで変化していくのは楽しいので。