連載「lit!」第141回:あばらや、ひらぎ、OSTER Project……『ボカコレ2025冬』各部門で輝いた注目作5選
遡ること約1カ月前、2025年2月21日〜24日にシーンの一大祭典である『The VOCALOID Collection 〜2025 WINTER〜』(以下、『ボカコレ2025冬』)が開催された。
ボカロシーン最大規模の投稿祭ならびに期間限定の複数部門におけるランキング戦が見どころであり、従来は半年に一度の周期で実施されていた本イベント。しかし昨年夏のニコニコ動画への大規模なサイバー攻撃の影響で、同時期に行われる予定だった『ボカコレ2024夏』はやむなく中止に。結果、今回がおよそ1年ぶりの開催となった。
毎回さまざまなドラマが生まれ、熟練クリエイターの参戦やニューカマーの誕生など、開催のたびに多彩なトピックがある点も『ボカコレ』が大勢の興味関心を引く理由のひとつ。そこで本稿では、今回の『ボカコレ2025冬』におけるTOP100部門、ルーキー部門、REMIX部門の優勝曲を中心に注目作5曲をピックアップ。どの曲もいわば、数千のボカロ曲の“頂点”に輝いたシーン最前線の話題作ばかり。現在進行形のVOCALOID文化がダイレクトに反映された、マストチェックの楽曲群だ。
あばらや「花弁、それにまつわる音声」
イベント一番の目玉となるTOP100部門にて、期間中ほぼ独走状態で優勝まで走り切った「花弁、それにまつわる音声」。楽曲制作のみならず、3DCG映像まで手掛けたボカロP・あばらやはなんとまだ18歳。まさしく“鬼才”と呼べるこのような新たな才能の台頭こそ、『ボカコレ』の醍醐味と言っても過言ではないだろう。
近年はアタックの強いハイテンポ曲が主流となるシーンにおいて、ミドルテンポの中で聴く者を踊らせるドープでダンサブルなグルーヴを見せるのも面白い今曲。“アッパーなエレクトロサウンド&二次元絵メインの映像”というボカロ曲の定石を打ち壊した今回のような楽曲の登場にも、シーンが新たなフェーズを迎えている兆しが見て取れるのではないだろうか。
r-906「匙ノ咒」
自身の十八番とも呼べるドラムンベースサウンドの魅力を遺憾なく発揮し、やや出遅れたスタートを巻き返してTOP100部門第2位まで登りつめたr-906「匙ノ咒」(さじのまじない)。楽曲自体は過去に同人コンピレーションアルバムへ収録された既出作であるものの、今作において映像の付与によって曲の持つ物語性がより視覚的に強化された点もおそらく支持に繋がっている。
重ねて、曲中における圧倒的な初音ミクの“調声バリエーション”の幅広さも本曲の必聴ポイント。歌唱に多彩な声色を用いながらも、当然それらはすべて機械音声ならではの無機質さを孕む。そういった点における不気味さも曲の不穏なムードをより助長し、作品自体への魅力として昇華させている。
ひらぎ「マリオネットダンサー」
従来からTOP100部門を超える投稿数を誇り、今回のイベント時も約4,000曲超の作品群による熾烈なトップ争いが行われた、新人ボカロPのためのルーキー部門。激戦を制したひらぎは2023年1月の「生きてる feat.裏命」でデビュー以降ルーキー部門での挑戦を続け、ラストルーキーとなる今回、ついに念願の部門優勝を勝ち取ったクリエイターの1人となる。
TOP100部門優勝曲と同様、本曲もミドルなテンポにあわせ実写カットをメインに据えた、モードなテイストの映像作品となっている点も興味深い。メリハリの利いたエレクトロサウンドや、メインボーカルの裏に敷かれた男声コーラスなど、聴衆の意識を惹きつけるテクニカルな曲作りが細部まで行われている印象も強い秀作だ。