サカナクションは、80年代カルチャーをどう消化した? 「モス」に潜む“コミカルさ”と“シリアスさ”
80年代への意識~リバイバルは海外シーンでも
ところで80年代への意識~リバイバルは、サカナクションに限らず、近年の世界的な動きでもあった。わかりやすいところではテイラー・スウィフトの「Shake It Off」。2014年発表のこの曲は、80年代末頃の音楽の影響を受けたことが公言されたアルバム『1989』に収録されている。
また、ベテランのパワーポップバンドのWeezerはこの頃a-haの「Take On Me」やTOTOの「Africa」をカバーしており、先日の『SUMMER SONIC 2019』でもパフォーマンスしていたほどだ。
こんなふうに80年代リバイバルは特別な事象ではない。あえて言えば、80年代に限らず、ポップミュージックが懐古されながらも新しい世代にも親しまれていくことは現代の音楽シーンのひとつの側面になっている。
ただ、海外で80年代の音楽が振り返られる際は、ポップスやロックのスタンダード/定番としての良さや楽しさが評価されている感が強いのに対し、日本では多くの場合、どことなくユーモラスで、笑いの要素が含まれているように感じる。大人世代であれば「あったね、こういうの!」と、笑いながら接するような。若い世代なら「なに、このファッション?」と驚くような。
一昨年、荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」が大阪府立登美丘高校のダンス部によってリバイバルヒットした要因のひとつは、彼女たちが80年代のファッションを再現していたのも大きかった。バブルに向かっていった時代の、気恥ずかしくなるようなブランド服のコスプレだ(ちなみに80年代にはあそこまでのスピード感やキレの良さを持つダンスはなかった。やはり2010年代的な解釈である)。
サカナクションの楽曲にある“コミカルさ”と“シリアスさ”
80年代を意識したサカナクションの一連のMVにもコミカルな要素はある。山口の衣裳やメンバーの動きに笑ってしまったファンも多いだろう。しかし大切なポイントは、楽曲に潜むテーマはあくまでシリアスであるという点だ。「モス」においても、それは同様である。
「この曲には、もともと「マイノリティ」という仮タイトルが付いていたんです。歌詞の中にも「マイノリティ」って言葉が出てくるんですけど、結構この言葉ってセンシティブじゃないですか。性的マイノリティや民族的マイノリティも含まれるから。でも、僕が言いたかったのは、みんなが好きと言うものを好きと言いたくない……自分の中に本当に好きなものがあるっていう、それを選ぶっていう性質のマイノリティだったんだけど。でもそれを「マイノリティ」というタイトルにしちゃうと全部含んでしまうので、違った表現ということで「モス」……虫の蛾ですね。それをタイトルにして完成させた曲です」(山口)
(TOKYO FM『SCHOOL OF LOCK! UNIVERSITY サカナLOCKS!』6月14日放送分)
「モス」のMVは非常にコンセプチュアルだ。映像は繭と、それを割って外に出ていこうとする山口を淡々と映すばかり。最後に彼と見つめあうのは、男性でありながら性別を超えた美貌を持つ16歳のモデル、井手上漠。ここにもメッセージ的なものを感じる。そしてそのシリアスな視点は、確実にこの2019年のものである。
この「モス」は8月23日放送の『ミュージックステーション』で披露されるとのこと。どんなパフォーマンスが展開されるのか? それはコンセプト的なものなのか? 楽しみに待ちたい。
(文=青木優)