『ブギウギ』“りつ子”菊地凛子が体現する淡谷のり子の精神性 歌に熱狂した人生を辿る

『ブギウギ』淡谷のり子の人生を辿る

 念願のクラシック歌手として活動を始めるが、それだけでは家計を支えることができず、流行歌も歌った淡谷。それが「ブルースの女王」のスタートとなるわけだが、当時、研究科に籍を置いていた学校からは低俗な歌を歌い、堕落したと見なされ、除籍のような扱いを受けてしまう。それでも淡谷は歌うことを決してやめない。レコード会社に所属すると、「ドンニャ・マリキータ」というシャンソンをヒットさせ、日本におけるシャンソン歌手の第1号に。そしてその2年後に「別れのブルース」が発売された。淡谷はこの曲にブルースの情感を出すため、一晩中煙草を吸い、一睡もせずにわざと喉を潰してそのままレコーディングに訪れ、ソプラノの音域をアルトへ下げて歌ったという。歌にかける情熱が感じられるエピソードだ。

 ちなみに第41話では警察での事情聴取で、「着飾って何が悪いの!?」「(ドレスは)ぜいたくでなく、表舞台に立つ人間にとって当たり前の格好です!」と食ってかかるりつ子の様子が描かれていたが、これは当時の淡谷自身の行動を元にしている場面と考えていいようだ。淡谷は、戦時中も軍部の命令に従わず、禁止されていたパーマをかけ、ドレスに身を包んでステージに立っていたという。

 後年は、現在も放送されることのある『ものまね王座決定戦』(フジテレビ系)の名物審査員として出演するなどテレビ番組で人気を集めた淡谷。一方で、若手の才能を見抜く力もあり、岩崎宏美や、森昌子の歌唱力を評価したり、五輪真弓の「恋人よ」を気に入り、自身のレパートリーにしていた。こうして現在も活躍する歌手との交流があったことを知ると、本作の舞台がそれほど遠い昔ではないことを実感できるのではないだろうか。

 『ブギウギ』でりつ子は美しいドレス姿で度々登場するが、淡谷も大のおしゃれ好きで、視聴者には声しか分からないラジオ番組に出る時でさえ、ドレスを着て現場に臨んでいたと言われている。また、バービー人形が好きで、自分が着用した舞台衣装と同じものを小さく仕立てて着せていたというかわいらしい一面が窺えるエピソードも残っている。

 淡谷の地元の青森では、とにかく強情な人のことを「じょっぱり」と言うそうだが、淡谷の人生はまさにこの一言で表せる。とにかく自分なりの生き方を真っ直ぐ貫いた淡谷。不思議なことにこうしてまとめていても、ちらちらとりつ子を演じる菊地凛子の姿が脳裏をかすめてくる。それほどまでに、菊地が淡谷の精神をその演技で体現しているということだろう。

 りつ子やスズ子にとっては、厳しい時代が続いていくだろうが、諦めることなく、人々にエンターテイメントを届けようとする姿に日々、励まされている。彼女たちが全力でパフォーマンスできるその日まで、しっかりと応援していきたい。

参照

1988年1月19日放送 『3時にあいましょう』(TBS系)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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