『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』北米2位発進 Appleの野心的映画ビジネスが始まる
巨匠監督マーティン・スコセッシと、レオナルド・ディカプリオが6度目のタッグを組んだ映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が10月20日に北米で公開された。ライバルは、公開2週目となった“歌姫”テイラー・スウィフトのコンサート映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』。前者は3時間26分、後者は2時間49分という“長尺対決”でもある。
10月20日〜22日の北米映画週末ランキングは、再び『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』が制した。月曜日から水曜日は上映を休止する戦略によって観客を週末に集め、3日間の興行収入は3100万ドルを記録。前週の9280万ドルに比べると-66.6%の大幅下落だが、作品の性質上どうしてもファン中心の興行となるため、やむを得ない結果だろう。
しかしながら、コンサート映画が2週連続No.1に輝いたことは史上初の快挙。北米興収は1億2978万ドルで、同じくコンサート映画が1億ドルを突破したのも初めてだ。本作は大手スタジオが関与していない“テイラー・スウィフトの自主映画”でもあるため、インディペンデント作品がこの短期間で1億ドルを記録するのも珍しい。製作費は1500万ドル、宣伝費もなるべく抑えられているため、相当の利益が出ると考えられる。
初登場第2位での発進となった『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、1920年代のオクラホマ州、ネイティブ・アメリカンのオセージ族に起こった連続変死事件を描いたサスペンス。居留地で採掘された石油のため、世界でも最も裕福な部族となっていたオセージ族だったが、そこに現れた白人たちが彼らの財産を管理するようになっていた。オセージ族の女性と結婚し、恐るべき犯罪に加担していく主人公をレオナルド・ディカプリオ、その叔父で巨大な陰謀を画策する男をロバート・デ・ニーロが演じている。
週末興収は2300万ドル。拡大公開作品としては異例の3時間26分という長尺であること、コロナ禍以降は興行的に苦戦しやすい大人向けのドラマ映画であること、そうでなくとも動員が読みにくい“歴史モノ”であること、さらにストライキの影響でディカプリオ&デ・ニーロらがプロモーションに参加できなかったことを考えれば、この結果は大健闘だろう。もしも2人のスター俳優が大々的に宣伝に登場していたら、初動成績には少なからぬ変化があったはずだ。
本作はRotten Tomatoesで批評家スコア92%・観客スコア84%という高評価を獲得。映画館での出口調査に基づくCinemaScoreでも「A-」評価と、スコセッシ作品でも屈指の支持を得ている。また驚くべきは、観客の約半数である44%が30歳未満という若年層だったことだ。アカデミー賞の有力候補とも言われるだけに、息の長い興行となることが予測される。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の製作費は2億ドルと高額で、スコセッシ作品とはいえ、現在のハリウッドで大人向けのドラマ映画にこれほどの予算が用意されることは珍しい(クリストファー・ノーラン監督『Oppenheimer(原題)』でさえ、製作費は半分の1億ドルだった)。これを実現したのは、ハリウッドの映画スタジオではなくAppleだったのだ。
本作はApple Original作品として製作されており、劇場公開後には自社の配信プラットフォームであるApple TV+にて独占配信される。通常の映画ビジネスならば「製作費2億ドルに対し、国内初動興収2300ドルというスタートはいささか厳しい」という判断になるのだが、Appleはまったく別の指標で劇場興行を捉えているはずだ。かつてNetflixは、自社作品の劇場公開を「Netflixというサービスの宣伝」として捉えていると強調していたが、そのロジックはAppleとApple TV+にも通じるだろう。