テイラー・スウィフトが映画館の救世主に “歌ってよし、踊ってよし”の異例興行で北米首位
世界最高のポップアイコンにして歌姫、テイラー・スウィフトが北米の映画館を席巻した。10月13日〜15日の週末映画興行ランキングは、ただいま世界巡回中のコンサートツアーを早くも収録した『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』がNo.1に輝いた。
そもそも本作は異例ずくめの一作だ。『THE ERAS TOUR』はスウィフトの音楽活動を時代(Era)ごとに区切り、各時代の名曲で構成した3時間以上のステージであり、2023年3月から2024年11月にかけて世界各国で全146公演を実施中(日本公演は2024年2月7日~10日)。スウィフトのチームは、2023年8月3~5日に開催されたロサンゼルス公演を収録し、その月末に劇場公開を急遽告知したのである。
もっとも、ハリウッドは全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが進行中。その渦中で製作~宣伝を完遂できるよう、スウィフトのチームは組合の求める条件をクリアした。さらに、映画スタジオを通さず、大手映画館チェーンのAMCと北米配給契約を結んだことで業界は激震。公開6週間前のサプライズ発表を受け、『エクソシスト 信じる者』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』など複数の話題作が直接対決を避けるために公開計画を変更した。また、チケットの先行販売では1日で2600万ドルを売り上げて歴代新記録を樹立している。
満を持して迎えた公開週末の興行収入は9500万~9700万ドルで、AMCは正確な数値を発表していない。「10月15日の興行予測が立てにくいため」との理由であり、速報値としてもイレギュラーな経過報告だ。残念ながら事前に期待された1億ドル突破は叶わず、「最終的には9400万ドルに近い」との予測もある一方、10月公開作品の歴代オープニング記録を誇る『ジョーカー』(2019年)の9620万ドルに迫る大ヒットとなった。
コンサート映画の北米オープニング成績として、本作は『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』(2011年)を抜いて歴代新記録を達成。海外市場でも3100万~3300万ドルを記録し、世界オープニング興収は1億2600万ドル~1億3000万ドルの見込みだ。作品としての評価も高く、Rotten Tomatoesでは批評家スコア100%・観客スコア99%となっている。
驚くべきは、本作の公開発表から劇場公開までが前述の通りわずか6週間だったこと、プロモーションのスケールも比較的小さく、テイラー・スウィフトのSNSが中心だったことだ(ただしInstagramとXのフォロワーは累計3億6000人以上)。秋の映画市場はストライキの影響で『デューン 砂の惑星 PART2』などが公開延期となり、“話題作ゼロ”の状態となる恐れもあった。映画館からすれば、テイラー・スウィフトは突如現れた救世主だったのだ(とりわけ、配給を兼任したAMCにとっては)。
型破りの興行は今後も続く。北米ではスウィフトの意向で「おしゃべり禁止、スマホ禁止」の映画館ルールが撤回され、「歌ってよし、踊ってよし、スクリーンを映さなければ動画も撮ってよし」の特別ルールで上映が行われている(日本国内はルールが異なるので要注意)。また、上映日を木曜日から日曜日までに限定したのもスウィフト側の指定で、なるべく満席の劇場でライブを体験してほしいとの狙いがある。今後数週間にわたり、週末の映画ランキングで一定の存在感を示すことになりそうだ。