アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』への期待と懸念 “実在性”にどう挑む?

『シャニマス』への期待と懸念

 2023年3月19日に開催された「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 5thLIVE If I_wings. DAY2」にて『アイドルマスター シャイニーカラーズ(略称:シャニマス)』が2024年春にTVアニメ化されることが発表された。「やった! 一体どんなアニメになるんだろう? わくわく!」というわけにはいかない。いくわけがない。なぜなら『アイドルマスター シャイニーカラーズ』をアニメ化するということは、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』をアニメ化するということだからだ。この記事では、TVアニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』に対する期待と懸念を語っていきたいと思う。

アニメ「アイドルマスター シャイニーカラーズ」ティザーPV

 『アイドルマスター シャイニーカラーズ』は育成ブラウザシミュレーションゲームである。それはつまり、三つしかない選択肢を選んだり揺れ動くバーをタイミングよくタップすることで一人の人間を導いた気になるゲームということだ。こう書くと実に面白くなさそうだが(事実『シャニマス』のゲーム部分はあまり出来のいいものとは言えない)『シャニマス』の魅力のひとつは育成ゲームでひとつまみのインタラクティブ性を加味したシナリオの異常なクオリティにある。

 『シャニマス』において、ひときわ優れている要素といえば記号的でなく、それでいて印象的で魅力豊かなキャラクターたち。そしてそんなキャラクターたちが紡ぐ、語り手、作者、ユーザー、そしてキャラクターを内包した多重的なストーリーだ。『シャニマス』は非常に現実的で厳しく、アイドルであること自体は人を決して幸福にしないことを描いている。時にそれは『アイドルマスター シャイニーカラーズ』ひいては『アイドルマスター』そのものへの自己批判的ですらある。

 なぜ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』が多重的で自己批判的でキャラクターに記号的なところがないのかというと、『シャニマス』はアイドルの実在性を追求するという愚直な一貫性を持っているからだ。シャニマス運営による実在性の追求の一例を紹介しよう。直近で記憶に新しいのは2022年の10月に行われた「見守りカメラ」という企画だ。これは「事務所に設置された見守りカメラ」という体でひたすらアイドルの衣擦れの音と吐息だけを聞くというだけのコンテンツである。はっきり言ってかなり気色悪いが、この企画からはあらゆる点でシャニマスアイドルに対する実在性のこだわりが見て取れる。

 また、2022年4月8日に発売された『アイドルマスター シャイニーカラーズ シナリオブック』(一迅社)に収録されたシナリオライターインタビューでは、アイドルたちの物語を紡ぐことを「カメラで撮る」と表現している。これは前提としてアイドルが実在しており、自分たちは彼女らの日々を切り取っているカメラに過ぎないということだ。

 この実在性への追求は、運営やクリエイターたちによる「斬新っしょ(笑)」みたいなクスクス笑いがなく、とにかくマジにやっているところがある。実際に、先述した『アイドルマスター シャイニーカラーズ シナリオブック』におけるシナリオライターインタビューでは「実験性というようなことはカメラ側(筆者注:シナリオライターのこと)では意識していません」と述べている。前提としてシャニマスのアイドルは実在しており、ただそのようにしているだけなのだ。とにかく「シャニマス」にはアイドルの実在性を追求するという愚直な一貫性があり、それはともすれば妙であったり気色悪かったりするが、同時に異様な空気感とともにキレ味の鋭いシナリオをお届けしてくれる。

 つまり『アイドルマスター シャイニーカラーズ』のアイドルは実在するが故に(現実の人間と同じように)記号的ではなく、その内側に膨大で複雑で生々しい情報量を内包している。そして実在するが故に『アイドルマスター シャイニーカラーズ』というブラウザゲームでアイドルをシステム的に管理することへの矛盾に時に(そして果敢に)ぶち当たったりする。それを5年間も積み重ねてきたことによる「実在性」に対する迫真さが、今の『シャニマス』である。

 ではもし『シャニマス』のアイドルが実在するとして、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』のアニメというものは、実在性に則ったものなのだろうか。本家『アイドルマスター シャイニーカラーズ』では実在性を追求した果てにアイドルたちを物語化することへの自己言及を行っている。これはアイドルという個をビジネスとしてナラティブにラッピングして提供することへの否定・批判(またある側面からは受容・理解・諦観であり、こうした多様な視点が『シャニマス』の魅力)であると同時に、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』というコンテンツ上でアイドルたちを物語化することへの否定である。『シャニマス』は「物語化を拒否した物語」という矛盾した作劇を極めてロジカルに、かつ高いクオリティで実現させている。

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