『よりもい』が傑作と言われる理由 『グッバイ、ドン・グリーズ!』公開に寄せて

 オリジナル長編劇場アニメーション『グッバイ、ドン・グリーズ!』が、2月18日から全国公開予定だ。

 本作は、ドン・グリーズというチームを結成した3人の少年たち――ロウマ、トト、ドロップが、冒険の果て、炎と氷の国・アイスランドへとたどり着く物語だという。

 完全オリジナル作品でありながら、少なくないアニメファンが本作に期待を寄せているのは、監督をいしづかあつこが務め、キャラクターデザインは吉松孝博、アニメーション制作をマッドハウスが手掛けるという、2018年放送のTVアニメ『宇宙よりも遠い場所』(読みは「そらよりもとおいばしょ」)と共通の座組によるものだからだろう。

 アメリカのニューヨーク・タイムズが「ベストTV 2018 インターナショナル部門」に選出するなど、国や文化を超えて高く評価された『宇宙よりも遠い場所』。本稿では、放送から4年が経ったいまなお色褪せないこの『宇宙よりも遠い場所』の魅力と、それによってもたらされる『グッバイ、ドン・グリーズ!』への期待について、書いていこうと思う。

普遍性と新規性を兼ね備えた『宇宙よりも遠い場所』

 『宇宙よりも遠い場所』は『よりもい』の略称で親しまれている。このアニメは、4人の女子高生が南極を目指す物語だ。当然、女子高生だけで南極旅行を行うことは、ほぼ不可能に近い。彼女たちは南極観測隊に所属する大人たちに、同行させてもらえるよう頼み込む。観測隊の隊長・副隊長は4人のうちのひとり、小淵沢報瀬(こぶちざわ しらせ)の母親の友人でもあり、この隊長たちがいかにして女子高生の無謀な願いを聞き入れるのか? というのが、物語序盤の見どころのひとつとなっている。

オリジナルTVアニメーション『宇宙よりも遠い場所』PV

 注目すべきは、4人の女子高生のうちひとりを除いた3人の「南極へ行きたい理由」は、実のところ「南極でなくてもよい」という点だろう。

 南極観測隊に所属していた報瀬の母親は、3年前の南極調査で、行方不明になっている。報瀬は、母を失った実感も沸かないまま過ぎてゆく日々に区切りを付けるため、彼女が消息を絶った南極に行くことを夢見ているのだ。

 そんな報瀬に感化されたのが、高校に入学したら「青春らしいこと」をしたいと思い描きながらも、気の小さい性格からなにも実行に移せていなかった玉木マリ(たまき まり、通称“キマリ”)。『よりもい』は、主に彼女の視点で物語が進行していく。

 3人目の三宅日向(みやけ ひなた)は「いましかできないことがしたい」という想いから、ふたりと共に南極を目指す。これはキマリと近い願望だが、日向は高校を中退しているため、この想いはキマリとは少々異なるニュアンスを持つ。4人目の白石結月(しらいし ゆづき)は北海道でタレント活動をしており、忙しく学校は休みがち。気心の知れた友人がいない。3人の関係に感化され、「この4人でなら南極に行ってみたい」と思うようになるのだ。

 報瀬以外が掲げる想いは、南極でなくとも達成できるものばかり。しかし、全員に共通している想いがひとつある。それは「この4人でやらなければ意味がない」ということだ。このことが視聴者に「どこに行くかではなく、誰と行くか(何をするかではなく、誰とするか)」が重要であるという、青春ストーリーの普遍的なメッセージを際立たせている。

 キマリと報瀬は同じ高校に通っているが、別のクラス。日向は高校に通っておらず、結月は北海道在住。4人がこの旅がなければ出会わなかったであろうことも、このアニメの風通しの良さに繋がっているだろう。学校の教室という狭い枠組みに囚われずとも、自分にとって掛け替えのない仲間は、この世界のどこかにいるかもしれない。そう信じられることで救われる視聴者も、きっと少なくないはずだ。

 その上で、アニメ作品としては、南極という珍しいロケーションが効果的に働いている。その真っ白な大地と、そこに向かう過程で女子高生たちが経験する困難(ひどい船酔いや、パスポートの紛失など)は目新しく、そこで紡がれるドラマは、彼女たちの旅を視聴者の立場としても「特別なもの」であると感じさせてくれる。こうした普遍性と新規性の絶妙なバランスが、『よりもい』を忘れることのできない傑作へと昇華させているのではないかと思うのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる