異世界転生は“社会的弱者”だけのものではなくなってきた? ジャンル拡大で起きた変化

2025年のクランチロール・アニメアワードでは「異世界作品賞」という新部門が新設される。同アワードのジャンル別部門には、アクション、ロマンス、ファンタジー、日常系、ドラマなどがあるのだが、「異世界」はそれらの定番ジャンルと並んで海外アニメファンに認識されているということなのだろう。この部門は英語で「Best Isekai Anime」と表記される。Isekaiはすでに(少なくともアニメファンの間では)英単語となっている。
異世界もののイメージは、いわゆる「転生もの」によって作られていると思われる。その典型的なイメージは、引きこもりや社畜サラリーマンなど、現実社会での挫折や不遇の境遇に置かれている人物が、不慮の事故などで死ぬと、ゲームや西洋ファンタジー的な世界に転生して、特別な能力を与えられこれまでの「負け組」的な人生から脱却して、冒険に出たり、スローライフを送ったりする、というものだろう。
しかし、アワードのジャンル賞にまでなった異世界は、すでにコモディティ化して、様々なバリエーションを生み出している。特に、2025年冬に放送されている異世界作品は、オタクな公務員のおじさんが悪役令嬢に転生したり、戦隊ヒーローの主人公や天才アニメーターなど、様々な職種や属性を持ったキャラクターを異世界に転生させる作品が目立つ。
異世界転生というアイデアの起用方法の拡大が見られるようになってきており、ステレオタイプなイメージでは括れない分野となってきている。
バリエーションが増え続ける異世界転生
「異世界転生」ジャンルは、小説投稿サイト「小説家になろう(以下、なろう)」で発展してきたと言われる。このジャンルの代表作である『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』や『Re:ゼロから始める異世界生活』『この素晴らしい世界に祝福を!』『転生したらスライムだった件』など、いずれも「なろう」発だ。
2010年代前半から量産され始めたこのジャンルの典型例は、日本人の主人公が死んで中世の西洋風世界に転生、そこで特殊な能力を発揮しながら成長していくというものだ。主人公の設定は作品によって異なるが、概ね現代社会に上手く適応できずにいるタイプであることが多いというイメージが停泊している。例えば、『無職転生』の主人公は20年近く引きこもり生活を送っていた34歳の男性で、現世での後悔を胸に異世界での2度目の人生で努力して成長していく様を描いている。
転生する時は特別な能力を与えられることが多いが、ジャンルが細分化していくにつれ、転生しても弱いままの場合、剣や自動販売機のような無機物、スライムや蜘蛛など人間以外のものに転生するパターンや、現世からの転生ではなく、同じ世界観の中で生まれ変わるなどのパターンも出てきており、大量に作品が生み出される中で、あらゆる組み合わせが試みられているといった状況だ。冒険はせずにのんびりとしたスローライフを満喫するというパターンもあるし、主に女性読者・視聴者をターゲットにした「悪役令嬢もの」もある。
ひと口に異世界ものと言っても幅広くあり、簡単にこうだとは言えないほどに多彩になってきている。