『罠の戦争』鶴巻幹事長に漂う“ラスボス感” 悪役っぽいのに信じたくなる岸部一徳の“魔力”
岸部一徳が、ただの“いい人”で終わるわけがない。『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)がスタートした時、多くのドラマファンはそう思っていたはずだ。『Heaven?~ご苦楽レストラン~』(TBS系)で演じていたようなお茶目な役柄もハマるけれど、やっぱり岸部にはドシっと構えた“ラスボス”がしっくりくる。
ただ、『罠の戦争』には怪しい黒幕候補があまりにも多く登場するため、「鶴巻(岸部一徳)はもしかしたら、鷲津(草彅剛)の味方になってくれる人物なのでは?」と思った瞬間もあった。鷲津が選挙に出ることを後押ししたのも彼だったし、選挙戦では“勝ち方”を教えてくれてたからだ。
でも、そんな望みは、第5話であっけなく散ってしまう。鷲津の息子・泰生(白鳥晴都)を突き落とした犯人の隠蔽を指示したのが、鶴巻であることが判明したのだ。
正直、黒幕は内閣総理大臣の竜崎(高橋克典)だと思っていたため、真相を知った時はゾワっとした。だが、たしかに「いい奴が、政治家なんかできるか?」と言い放ち、不気味な笑いを浮かべていた鶴巻は、怪しかった。「はっはっはっ」と言いながらも、本心から笑っているわけではないことが伝わる瞳。そういえば、鶴巻はいつも笑い声をあげているだけで、目の奥は笑っていなかった。
それなのに、なぜだろう。岸部が演じるキャラクターには、幾度となく騙されてきているはずなのに、心のどこかで信じてしまう自分がいるのだ。
それはやはり、演じている岸部の力が大きいのだろう。彼には、いい意味で二面性が宿っているのだ。一見、優しそうに見えるのに、“悪役っぽい”と言われたら、「たしかに」と納得してしまうビジュアル。
そして、声量はそんなに大きくないのに、どっしりと胸の深い部分に届く声。また、一つひとつの動作がゆったりとしているところは、柔らかい人にも見えるし、ラスボスのように見せることもできる。岸部が、相反する魅力をあわせ持っている人物だからこそ、私たちは惑わされてしまうのだろう。