『ブラックアダム』北米No.1の好スタート ドウェイン・ジョンソン主演作の新記録樹立

『ブラックアダム』北米No.1の好スタート

 ドウェイン・ジョンソンが「DCユニバースのヒエラルキーを変える」と息巻く、DC映画最新作『ブラックアダム』がついに北米で公開され、10月21日~23日の週末興行収入ランキングの“王座”に輝いた。3日間の興行収入は4402館で6700万ドル、ドウェインの主演映画としては過去最高のスタートとなった。

 本作はDCコミックスのキャラクターとしては決して知名度の高くない、ブラックアダム/テス・アダムの単独映画。ドウェイン演じるテス・アダムは古代で神々の力を授かったが、そのパワーを復讐に使ったために投獄され、ブラックアダムとなった。5000年もの年月を経て解放された彼の前に、ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカという現代のスーパーヒーロー・チームが現れる……。監督は『ジャングル・クルーズ』(2021年)のジャウマ・コレット=セラが務めた。

 そもそも『ブラックアダム』の実現はドウェインの悲願だった。本作のプロデューサーであり、ドウェイン率いる製作会社Seven Bucks Productions幹部のハイラム・ガルシアは「本作の成功は夢であり、我々はここを目指して15年間動き続けてきました。キャリア史上最高のオープニングで、私たちの懸命な仕事が報われたのです」とコメントしている。

 いまやさほど珍しい現象でもないが、本作は批評家と観客のあいだで評価が真っ二つに分かれた。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでは「B+」評価を獲得、Rotten Tomatoesでは観客スコア90%を記録したが、批評家スコアは40%と低い。観客の支持は『ジョーカー』(2019年)をも上回る一方、批評家からの評価は『ジャスティス・リーグ』(2017年)以来の低水準だ。

 もっとも昨今、(少なくともスーパーヒーロー映画に関しては)批評家の評価は興行面にさほど大きな影響を与えないらしい。米Deadlineによると、『ブラックアダム』は批評家の悪評を受け、6000万ドル超えの初動成績は難しいと見られていたという。ところが、結果はそうした事前の予測を軽々と上回った。公開後3日間の成績が5000万ドルを超えたのは、7月公開『ソー:ラブ&サンダー』以来。もはやスーパーヒーロー映画は批評的に観るものではなく、ひとつのイベントとして享受されるようになったということか。

 自らが長年夢見たプロジェクトとあって、ドウェインは公開前にテレビ番組に多数出演。SNSでのプロモーションのほか、メキシコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、トロント、ロンドン、マドリードと各地を飛び回っての広報活動にも熱心に取り組んだ。プロデューサーのガルシアは、本作の目的は「ユニバースを拡大すること、そして何よりもファンを大切にすること」だったと語っている。言わずもがなシリーズ化は視野に入っていることだろう。

 ただ、続編うんぬんの観点で言えば、3日間で6700万ドルという数字は十分な滑り出しとは言えない。北米興収3億3506万ドル、世界興収11億4846万ドルもの大ヒットを記録した『アクアマン』(2018年)も初動成績は6780万ドルだったが、同作は4カ月近いロングランと中国でのスマッシュヒットが功を奏した。また、同じくアンチヒーローが主人公の『ヴェノム』(2018年)は公開後3日間で8025万ドルを記録している。『ブラックアダム』は製作費1億9500万ドルを投じた大作(※宣伝費を除く)だけに、黒字化までは長い道のりを控えているのだ。

 勝負の分かれ目は、本作が『アクアマン』よろしくロングランを狙えるかどうか。スーパーヒーロー映画は公開2週目の下落率が大きくなる傾向にあるが、『アクアマン』はクリスマス~正月のホリデーを活かし、2週目の下落率を-23.2%に抑え、その後も約1カ月間は週ごとに-40%という粘り強い興行を展開したのである。

 その点で『ブラックアダム』に勝算があるとすれば、本作に対する観客の認識が「スーパーヒーロー映画」ではなく「ドウェイン・ジョンソン映画」であることだ。出口調査によると、本作を映画館で観た理由について、最も大きかったのは「ドウェイン・ジョンソンが出ているから」の44%。次いで「スーパーヒーロー映画だから」が39%、「DC映画だから」が32%だったという。ドウェインのスター・パワーによってジンクスを打ち破れれば、今後の展開は大きく変わってくるはずだ。

 なお本作は世界77市場で公開されており、全世界興行収入は1億4000万ドルを記録。海外市場で特に優れた成績となったのは、イギリス(610万ドル)、メキシコ(530万ドル)、ブラジル(490万ドル)、オーストラリア(470万ドル)だった。日本公開は12月2日だ。

 『ブラックアダム』に続いて第2位に初登場したのは、ジュリア・ロバーツ&ジョージ・クルーニー共演のロマンティック・コメディ『チケット・トゥ・パラダイス』。こちらも事前の予想を上回り、3日間で1630万ドルを記録した。ちなみに本作は海外市場で9月上旬から随時公開されていたため、北米公開を受けて世界興収はまもなく1億ドルを突破する。

 本作は、20年前に離婚した元夫婦のデヴィッド&ジョージアが、娘のリリーが旅行先のバリ島で出会った男と結婚すると聞き、なんとか現地で娘の結婚を阻止したいと力を合わせる物語。監督・脚本は『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』(2018年)のオル・パーカーが務め、娘のリリー役には『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)のケイトリン・デヴァーが起用された。

 批評家と観客の評価が分かれたのは『チケット・トゥ・パラダイス』も同じで、こちらはRotten Tomatoesでは批評家56%、観客89%を記録。CinemaScoreでは「A-」評価となった。観客の約半数が45歳以上だというから、『オーシャンズ』シリーズでも夫婦役だったクルーニー&ロバーツの再共演が観客の関心を惹き、純粋なロマコメとしての魅力で支持をつかんだことがうかがえる。製作費は6000万ドル、配給のユニバーサル・ピクチャーズはロングランにも期待をかけた。日本公開は11月3日。

 公開4週目の『Smile(原題)』は、前週比-33.5%という変わらぬ健闘ぶりを見せ、3日間で835万ドル(前週比-33.5%)を記録して第3位にランクイン。北米興収8431万ドル&海外興収8190万ドルで、世界興収は1億6621万ドルという正真正銘のヒット作に成長した。

 かたや、非常に厳しい状況に置かれたのが『ハロウィン』新3部作の完結編『Halloween Ends(原題)』だ。2週目で第4位というランクはともかく、問題は前週比-80%という衝撃の下落率。北米では同時配信ということもあるが、同条件だった前作『ハロウィン KILLS』(2021)以上の下落率となった。現時点で世界累計興収は8201万ドル、この成績をどう見るか。

 本稿ではこれまで触れてこなかったものの、今週第7位に上昇した『Terrifier 2(原題)』の伸びっぷりはさすがに無視できない。スプラッター映画『テリファー』(2016年)の続編である本作は、あまりにグロテスクな描写ゆえ、上映中に退出する観客が続出しているとしてSNSで話題を呼び、公開3週目にして前週比+83.9%という異例の推移。北米興収は525万ドル、現在は北米755館で上映されている。

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