第75回カンヌ国際映画祭の観客の反応 最もスタンディングオベーションが長かった作品は?

第75回カンヌ映画祭の観客の反応を振り返る

 フランス現地時間5月17日より開催されていた第75回カンヌ国際映画祭が、5月28日の授賞式とセレモニーをもって無事に閉幕した。今年は是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』がコンペティション部門に選出され、「ある視点」部門にも早川千絵監督の『PLAN 75』が出品されるなど、日本からも熱い注目を浴びていたと言えるだろう。世界中からトップの映画業界人が集まるこの祭典では、上映後のスタンディングオベーションやブーイングも、賞の行方と同じく作品の評判を左右する基準の1つだ。では、今年のカンヌで最も長いスタンディングオベーションを巻き起こしたのは、どの作品だったのだろうか。そのほか、注目作への反応もあわせて見ていこう。

バズ・ラーマン監督『エルヴィス』に史上最長のスタンディングオベーション

 今年のカンヌで最も長いスタンディングオベーションを受けたのは、アウト・オブ・コンペティション部門で上映されたバズ・ラーマン監督作『エルヴィス』だ。12分もの観客の熱烈な反応は、なんと今年だけでなく、同映画祭史上最長というのだから驚かされる。伝説のロックスターの伝記映画である本作で主演を務めたのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』への出演でも知られるオースティン・バトラー。歌手としても活動している彼は、歌唱シーンのいくつかを自ら歌い上げている。本作に対する批評家の反応は非常に良く、TIME誌のステファニー・ザカレックは、「バズ・ラーマンは私たちに本物のエルヴィスを見せたのか、あるいはすでに私たちのイメージの中に生きているエルヴィスを再現したのだろうか? 彼は事実と神話に同等の価値を見出しているようだ」と絶賛。事実とフィクションの絶妙なバランスも、評価を高めたポイントだ。

 同じくアウト・オブ・コンペティション部門では、トム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』も欧州プレミアとして上映され、5分~6分のスタンディングオベーションを受けている。日本ではすでに公開されている本作は、やはり大迫力のスカイアクションが好評で、ストーリーの面でも前作に劣らないと評判も高い。そしてトム・クルーズは長年の功績が讃えられ、サプライズで名誉パルムドールが贈られたことも話題になった。エンターテインメント映画に徹してきた彼は賞レースとはほとんど縁がなかったが、その映画愛が業界に認められたのだ。

パルムドール受賞作『Triangle of Sadness』と注目の『ベイビー・ブローカー』

 今年のパルムドール受賞作は、スウェーデンのリューベン・オストルンド監督による『Triangle of Sadness(原題)』。オストルンドにとっては、2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』につづいて2度目のパルムドール受賞となる。ラグジュアリーヨットが遭難し、孤島に流れ着いた人々のヒエラルキーが逆転するこの風刺コメディの上映後、スタンディングオベーションは8分間も鳴り止まなかった。DEADLINEのステファニー・バンバリー記者は、「本作は平等について共有すべき価値観を描いている」とし、「キャラクターたちは金魚鉢のようなビーチに閉じ込められ、裏切りや自己中心的な行動を通して、彼らがどんな人間なのかを知る。オストルンドはそこに可笑しみを見出したのだろう。本作はほろ苦く、クレバーで、現代にぴったりの作品だ」と評している。またBBCのニコラス・バーバーは、「風刺コメディに2時間半は長いと思うかもしれないが、決して飽きさせない。それは本作が政治的な鋭さと、驚くほど多くの温かいニュアンスを兼ね備えているからだ」と絶賛した。

 しかしパルムドール受賞作が、コンペティション部門で最も長いスタンディングオベーションを受けたわけではない。是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』は、“赤ちゃんポスト”に預けられた子どもをきっかけにして出会った人々を描くヒューマンドラマだ。上映後、会場は『エルヴィス』に匹敵する10分~12分のスタンディングオベーションに沸いた。Hollywood Reporterのデヴィッド・ルーニー記者は同作について、「是枝はメロドラマを社会的リアリズムに引き寄せて描き、感傷的なものをやさしく抱きしめる。それこそが彼を人間ドラマの名人たらしめる理由だ。特に後半は、全てのシーンが鋭く胸に突き刺さる」と高く評価した。最終的に『ベイビー・ブローカー』は主演のソン・ガンホが韓国人として初めての男優賞を手にし、エキュメニカル審査員賞を獲得。エキュメニカル賞は、キリスト教の国際映画組織から贈られるもので、同組織は受賞の理由として同作を「人間の内面を豊かに描いた作品」と評価している。

 グランプリ受賞作『Close(原題)』も、10分もの熱烈なスタンディングオベーションで讃えられた。監督を務めたベルギーのルーカス・ドンは、2018年にトランスジェンダーの少女を描いたデビュー作『Girl/ガール』でカメラドールとクィアパルムを獲得し、大きな注目を集めた。そんな彼が、今度は長編2作目にしてグランプリを受賞したのだ。『Close』は13歳の少年2人の友情と、それを脅かす出来事を描いた青春ストーリー。CineVueのジョン・ブリースデールは、「ドンの2作目は、感動的で共感できる男の友情を、素晴らしい演技と美しい撮影で描き出した」と絶賛している。上映中、会場は涙に包まれたという。

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