第75回カンヌ国際映画祭の観客の反応 最もスタンディングオベーションが長かった作品は?
やはり賛否両論のクローネンバーグ、グランプリ受賞作には観客が困惑?
映画祭開催前から、「上映開始5分で途中退場者が出るだろう」と語っていた監督のデヴィッド・クローネンバーグだが、彼の予言通り『Crimes of the Future(原題)』は開始早々から途中退場者が続出。しかし上映終了後には7分にも及ぶスタンディングオベーションが贈られ、クローネンバーグはスピーチで観客への感謝を示した。「大きなスクリーンで初めてこの作品を観ました。皆さんの反応に感動しています。皆さんがふざけているわけではないことを祈ります」、「私にとって、この映画をようやく人と一緒に観られたのは素晴らしいことです」。『Crimes of the Future』は、人類が人工的な環境に適応しようとしている近未来が舞台になっている。自身の身体から臓器を取り出すパフォーマンスで注目を浴びる、パフォーマンスアーティストのソウル・テンサー(ヴィゴ・モーテンセン)が主人公だ。カナダの鬼才が、自らの得意とするボディホラーのジャンルに戻ってきたことを歓迎する声は多い。The Wrapのアロンソ・ジュラルデは、「クローネンバーグは映画作家として、自身が執着しているものを、物語としても映像的にも掘り下げつづけている」と彼の変わらない作家性を評価した。一方で、「設定には興味をそそられるが、退屈なストーリーとイライラさせるキャラクター、監督のお決まりのフェティッシュ、自意識過剰な難解さや単純さがごちゃまぜになっている」とワシントン・ポストのアン・ホーナデイは痛烈に批判。やはり賛否両論を巻き起こしている。
スタンディングオベーションに注目して話を進めてきたが、もう1つのグランプリ受賞作『Stars at Noon(原題)』については、観客の反応は違っていた。南米を舞台に、アメリカ人ジャーナリストと、ミステリアスなイギリス人男性が陰謀に巻き込まれるラブサスペンスである同作の上映後、会場にはスタンディングオベーションもブーイングも起こらず、奇妙な沈黙に包まれた。こういった反応、というより無反応はカンヌでは珍しく、よほど観客を困惑させたようだ。監督は1988年のデビュー作『ショコラ』がいきなりカンヌのコンペティション部門に出品され、注目を集めたクレール・ドゥニ。フランスで存命の映画監督のなかでも、最も尊敬される人物の1人だが、いったいなにがあったのだろうか。さまざまな批評を見てみると、約40年前の原作小説の舞台を現代に移しているが、古臭い設定や価値観、ストーリー展開を問題視する意見がある。またミスキャストを指摘する声や、監督の名声に乗っかっただけという厳しい見方もあるようだ。一方でロマンスとして評価する向きもあり、デイリー・テレグラフのロビン・コリンズは、「ドゥニが作ったこの映画は、あなたを夢中にさせる心音と共鳴する。落ち着かない悦びに全身を浸す」と詩的な文章で高評価を寄せている。グランプリ受賞作でも、このように評価は割れるものなのだ。
世界最高峰の映画祭であるカンヌ国際映画祭では、スタンディングオベーションやブーイングも名物だ。特にスタンディングオベーションの長さという、世界中の映画の目利きたちの生の反応は、一般の観客にとって、まだ見ぬ名作に期待が高まる指標になっている。カンヌ史上最長のスタンディングオベーションを記録した『エルヴィス』は7月1日に日本公開。『ベイビー・ブローカー』は6月24日に公開される。そのほかはまだ日本公開が決定していないが、それぞれ楽しみに待ちたい作品ばかりだ。
参考
https://www.festival-cannes.com/en/festival/festival/press-articles/communique/photos/the-75th-festival-de-cannes-winners-list
https://www.indiewire.com/gallery/longest-cannes-standing-ovations-applause-ever/
https://time.com/6181818/elvis-movie-review/
https://variety.com/2022/film/markets-festivals/tom-cruise-cannes-top-gun-maverick-fighter-jets-1235271089/
https://www.kdramastars.com/articles/125206/20220526/cannes-film-festival-2022-broker-hunt-standing-ovation.htm
https://www.hollywoodreporter.com/author/david-rooney/
https://www.brusselstimes.com/228993/belgian-film-close-gets-standing-ovation-at-cannes-film-festival
https://cine-vue.com/2022/05/cannes-2022-close-review.html
https://theprint.in/features/cannes-2022-woody-harrelsons-triangle-of-sadness-receives-eight-minute-standing-ovation/969219/
https://www.bbc.com/culture/article/20https://deadline.com/2022/05/triangle-of-sadness-cannes-film-review-ruben-ostlund-woody-harrelson-1235029662/220523-triangle-of-sadness-review-a-gross-vomit-filled-satire
https://deadline.com/2022/05/crimes-of-the-future-cannes-premiere-1235030273/
https://www.thewrap.com/crimes-of-the-future-review-david-cronenberg-kristen-stewart-2022/
https://www.washingtonpost.com/movies/2022/06/01/crimes-of-the-future-movie-review/
https://www.wmagazine.com/culture/cannes-film-festival-reviews-stars-at-noon-gods-creatures-2022
https://www.telegraph.co.uk/films/0/stars-noon-review-erotic-thriller-whose-sexiness-swirls-screen/