孤独を感じたことのある全ての人へ 『ディア・エヴァン・ハンセン』が寄り添う過去と現在

孤独に共感『ディア・エヴァン・ハンセン』

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、最悪の中高生活を送ったアナイスが『ディア・エヴァン・ハンセン』をプッシュします。

『ディア・エヴァン・ハンセン』

 人は人を傷つけずにはいられない。これはもう、悲しいけれど事実だと思う。明らかな悪意を持って傷つけることもあるし、良かれと思ってついた嘘も結果的に誰かをより深く傷つけることになる。直接的ないじめはしなくても、向ける目線が刃となり、時にそれが誰かの手首を傷つけることになるかもしれない。どんなに明るく見える子でも、どんなに暗い子でも、それぞれが傷つけられ、傷つけている。そして、みんな孤独だ。そんなことを『ディア・エヴァン・ハンセン』は描く。

 主人公のエヴァン(ベン・プラット)は社会不安障害に悩まされる18歳。友達はいない。高校生活最後の1年を充実させるために、気になる女の子に声をかけてみようか悩む。そしてセラピストのアドバイス通り、自分の思いを他人に伝えられない彼は“自分自身に向けて”手紙を書くことでそれを表現しようとする。ところが、この手紙を学校一の嫌われ者・コナー(コルトン・ライアン)に取り上げられてしまった。ネットにアップされたり、バカにされたりしていないか。不良のコナーが学校に来ない間、何度も自分の名前をSNSで検索して大丈夫か確認するエヴァン。それから3日後、コナーの両親が学校を訪れた。彼が、自ら命を絶ったという。そして、彼の唯一の所持品がエヴァンの手紙だった。

 そんなところから始まる本作を監督したのは、2012年に公開された『ウォールフラワー』の原作者であり監督を務めた、スティーヴン・チョボスキー。『ワンダー 君は太陽』の監督でも知られる彼は、ティーンエイジャーの抱える孤独と“いじめ”を描く天才だ。彼の作品に共通するのは、何らかの形で社会から切り離された(気持ちでいる)主人公、そして献身的な両親である。特に『ウォールフラワー』の主人公チャーリーは、本作の主人公エヴァンと同じくうつ病や不安障害に悩みながら、宛先のない手紙を書いて感情表現をするという共通点がある。

 宛先のない、誰かに届けるつもりのない感情が象徴するのは、“孤独”だ。結局、どれだけSNSで繋がりやすい時代になっても、大切なことが話せる相手を誰もが持っているわけではない。学校のような、たくさんの人がいる環境であればあるほど、その孤独感はより強く感じる。そうじゃなくたって、たくさんの人がこのコロナ禍で孤独を感じたことだろう。だからこそ、「みんな孤独だけど、孤独じゃない」という本作が描くメッセージは、ストレートだけど、すごく暖かくて、誰かの優しいハグみたいだ。

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