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“涙を誘う感動映画”のイメージを乗り越える 『ワンダー 君は太陽』の壮大な世界

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 遺伝子の疾患によって、多くの人とは異なる特徴的な顔で生まれてきた男の子、オーガスト(オギー)。両親や姉の献身的な愛情に恵まれて育ち、同年代の子どもたちの好奇の目に触れないように自宅で学習をしていたが、ついに5年生の新学期から学校へと通う決意をする。

 『スター・ウォーズ』や宇宙が好きで、科学が得意なオギーは、普段はお気に入りの宇宙飛行士用のヘルメットをかぶって外出していた。とうとうそのヘルメットを外し、顔を出して校門の内側へと足を踏み出すのだ。本作『ワンダー 君は太陽』は、孤独やいじめに耐えながらも、周囲のサポートに助けられながら、能力を発揮して道を切り拓き、成長していくオギーの一年間と、心暖まる奇跡の訪れを描く。

 ベストセラーとなった児童書を映画化し、『ルーム』でブレイクした子役、ジェイコブ・トレンブレイがオギーを演じた本作は、その表面的なストーリーの流れを見る限り、“かわいそうな主人公”による、涙を誘う感動映画を予感させ、そのことは一部の観客にとって抵抗を感じてしまうかもしれない。だが実際に本作を見ると、そんなイメージを乗り越える、複雑な構成の語り口と予想外の展開、楽しい雰囲気に驚かされるだろう。そして、さらに思ってもいなかった壮大な世界にも触れさせてくれる。ここでは、そんな『ワンダー 君は太陽』の興味深い点を深く考察していきたい。

 多くの人が経験したり目にしているように、学校のクラスメイトたちによって作られる小さな社会の中では、おとなしい子どもや、スポーツのできない子ども、そして“普通とは違う”と見なされた子どもが、肩身の狭い思いをしたり、いじめに遭うことがある。整形手術の痕の残る特徴的な顔を持ったオギーが、まだ社会的な常識を十分に身につけてはいない小学生の集団のなかに入っていく…。初登校の日、家族は祈るような気持ちでオギーを校門の外から見送る。入学はオギーにとって良い経験だと考える反面、同時にそこでどんなつらい思いをするのかを想像すると、胸が締めつけられる思いだろう。

 案の定、学校から自宅へ帰ってきたオギーは、打ちひしがれて無口になっていた。新学期、何人もの新しい顔ぶれがクラスにやって来たのにも関わらず、彼はクラスメイトの誰からも話しかけられず、食堂では一人孤立して食事をしていたのだ。原作では、“サマー”という女の子が食堂で初日に声をかけてくれるのだが、映画版はそのあたりに脚本上の変更があり、よりリアルで、よりビターな印象が与えられる。母親が元気づけようとすると、悲しむオギーは尋ねる。「僕はどうして醜いの?」「これから、ずっとこうなの?」

 学校生活、職場、その後の人生と、オギーはいつまでもこのような苦しい日々を送らなければならないのだろうか。だがこの後、予想を超える展開が訪れることになる。オギーの物語は、本人の視点から、姉やクラスメイトの視点へと移り変わっていき、複数の章によって多角的に、オギーを中心とする物語が描かれていくのだ。そこで分かるのは、別の角度からのオギーの姿である。

 いつもオギーを励ましている姉は、弟を大事に思う一方で、弟ばかりに両親の関心が向いていることに、少なからず傷ついてもいた。姉はオギーを太陽になぞらえ、家族はそこを中心に回っている惑星みたいなものだと表現する。姉から見た彼は、明るく快活な性格で、いつもみんなを笑わせる才能を持っていた。頭が良くユーモアのセンスにも優れているオギーは、じつは人気者になれる素養があるのである。それを証明するように、はじめは容貌によって敬遠されていたオギーは、次第に周囲の人々を惹きつけ、学校の中でも太陽のような中心的存在になってゆく。当たり前だが彼の容貌は、その人間性とは本質的には関わりのない、あくまで外見上の一つの特徴に過ぎなかったのだ。

 複数の視点で物語を紡いでいくというのは、原作にもあった試みだ。次第に状況が上向いていくオギーの物語は、彼自身の視点のみで描かれていれば、都合が良すぎるという印象を与えるかもしれない。だが章仕立ての作品構造を支える姉たちのような登場人物が、太陽に照らされる惑星のように影の部分を引き継ぐことで、映画全体はリアリティのバランスを保っている。

 そしてまた、太陽のようなオギーがいることで、周囲の人々に光が当たるということも、また確かである。個性の輝きが強い人間もいれば、弱い人間もいる。それらが社会のなかで影響し合うことで、それぞれの物語は有機的なつながりを持ち、変化していく。それらは等しく価値のある、語られるべきものなのだ。

      

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