『新スースク』ジェームズ・ガンも なぜアメコミ映画の監督にホラー畑出身者が多いのか?

なぜホラー監督はアメコミ映画を撮る?

 8月13日に公開された『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』は他でもない、ジェームズ・ガン監督作品だ。彼の名を聞けばマーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を思い浮かべる人も多いほど、今となってはれっきとしたアメコミ映画監督としての顔を持つガン。しかし、彼のキャリアの始まりはトロマという悪名高き(褒め言葉)B級ホラー・コメディ映画製作会社の作品だった。そしてザック・スナイダーの『ドーン・オブ・ザ・デッド』に脚本で参加し、後に『スリザー』を世に放つ。言ってしまえば、彼の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』以前のキャリアのほとんどがホラー映画なのである。そして、それは彼に限ったことではない。先に名の出たスナイダーも『ドーン・オブ・ザ・デッド』の監督を経て『ウォッチメン』を手がけ、そのダークな作風が買われて後のDCエクステンデッド・ユニバースに参加した。

ザック・スナイダー (『アーミー・オブ・ザ・デッド』Netflixで独占配信中)

 この2人は氷山の一角で、マーベルとDCの映画作品を担当した監督を並べると、そのほとんどがホラー映画出身である。元祖『スパイダーマン』3部作を手がけたサム・ライミ、『アベンジャーズ』のジョス・ウェドン、『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソン、『スパイダーマン:ホームカミング』のジョン・ワッツ、『アクアマン』のジェームズ・ワンに『シャザム!』のデヴィッド・F・サンドバーグ。これから公開されるDCの『ブラックアダム(原題)』も『エスター』や『蝋人形の館』で知られるジャウム・コレット=セラ、『ザ・フラッシュ(原題)』も『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のアンディ・ムスキエティが手がける。そして何を隠そうアメコミヒーロー映画の始まりといっても過言ではない『スーパーマン』を手がけたリチャード・ドナーは『オーメン』を世に送り、『バットマン』を手がけたティム・バートンは『フランケンウィニー』や『ビートルジュース』など、ダークなゴシックさをベースとした彼らしい独特の雰囲気を持つ作品を発表してきた人物である。

『アクアマン』TM and (c)DC (c)Warner Bros. Ent. Inc. All Rights Reserved.

 なぜホラー映画を手がけてきた監督たちがアメコミ映画に起用されるのか。それは、そのホラーというジャンル性、そしてテクニックの2つの面で考えられる。まず前者について考えてみたい。どんなホラー映画も始まりは観客を“騙そう”とする。例えば多くのスラッシャー映画の最初の方はティーンエイジャーの青春映画だし、呪われた家系のホラーの始まりは家族ドラマで開幕される。途中で完全にジャンルスイッチするものもあれば、最後まで他ジャンルと両立して描かれていくものも少なくない。これが、ホラー映画監督が他ジャンルの映画を撮れる必要性に繋がっていくのだ。

 しかし、騙すと同時に“信じさせる”必要があるのもホラー映画。多くの映画ジャンルにおいて少なからずそうであるが、特にホラーやSFなどの作品は非現実的であるものを、時には面白おかしく見せながらも観客にリアルだと思わせなければいけない。サム・ライミは『死霊のはらわた』で恐怖に少しの笑いをもたらし、後にまだヒーロー映画がジャンルとして強く支持されているわけではなかった時の『スパイダーマン』をエンタメ作品として多くの人が楽しめるように作り上げることに繋げた。また、同時にしっかりした世界観を構築しなければならないことも、ホラー映画の要。これもまた、ヒーロー映画ジャンルに通じるものだ。特にジェームズ・ワン監督はこれに強く、これまでも『ソウ』や『インシディアス』、『死霊館』などで独自のホラーユニバースを展開してきた。そんな彼だったからこそ、DC映画の中で神話とヒーローが題材であり、最も世界観重視の『アクアマン』を成功させることができたのではないだろうか。

『アナベル 死霊人形の誕生』(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 何より興味深いのが、それぞれの監督が自分のホラー映画でやったことに近いことを、ヒーロー映画でそのままやっている場合が多いことだ。例えばスコット・デリクソンは『エミリー・ローズ』や『フッテージ』で、超常現象やその類の世界を信じない主人公を描いてきた。それがそのまま『ドクター・ストレンジ』に反映されている。デヴィッド・F・サンドバーグは『アナベル 死霊人形の誕生』で里親を求める孤児の少女たちの結託を描いたが、これは『シャザム!』のプロットとほぼ同じなのである。新しい家に辿り着いた孤児たちが、自分の理解を超える何か強大な力に出会う。変な話、ジョス・ウェドンの『キャビン』のホラークリーチャー大集合も、言ってしまえば『アベンジャーズ』のヒーロー大集合における布石だったのかもしれない……なんちゃって。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる