『おむすび』は“私たちの今”を肯定する朝ドラだった 震災・コロナ禍にも負けないギャル魂

『おむすび』(NHK総合)は「食」をテーマにしながら、ギャル魂と震災を描く、平成から令和、そして今を生き抜く私たち、もしくは誰かの朝ドラだったように思う。
そのことを強く印象付けるのは、最終回のB'z「イルミネーション」が流れ終わった後のラスト2分間。2025年1月17日、結(橋本環奈)がテレビをつけると放送しているのは『おむすび』。リリー・フランキーの語りが、阪神・淡路大震災が起きた日付だと伝えている。結がおむすびを握り向かったのは、神戸の街が一望できる高台。そこには雅美(安藤千代子)が待っていた。

1995年、結が幼い頃に阪神・淡路大震災の避難所で雅美からもらったおむすびを、今度は結が雅美に握り返す。まだ温かいまま。『おむすび』のメインビジュアルでも描かれているように、雅美からもらったおむすびが、結にとって栄養士を目指そうと思った原体験であり、その恩返しで物語が幕を閉じるのは必然でもあると感じた。また、歩が何気なく聞いた「今年も行くの?」という一言からは、これまでも雅美に会っていたことを想像させる。思い出すのは、『あさイチ』(NHK総合)「プレミアムトーク」に北村有起哉が出演していた時のこと。『おむすび』の物語は糸島からもう一度神戸に戻る局面にある頃で、北村は米田家が福岡を離れることはなく、定期的に訪れることになると話していた。その後、度々“朝ドラ受け”でも結たちは糸島に帰っているのかが議論されていたが、その描かれていない余白部分が、まさに今回の結と雅美の関係性ではないだろうか。
セミファイナルとなる第124回から最終回へと跨いで描かれるのは、歩(仲里依紗)から詩(大島美優)を引き取ろうとするのは甘かったかもしれないと聞いた結のリアクション。親代わりになれるのか、ひとりで育てられるのか。児童相談センターの担当者から未成年後見人になることについて話を聞き、自信を失くす歩に、結はあくまで仮定の話であり、一歩踏み出さないのはらしくないと勇気づける。

ギャルのモットーは「今、この瞬間を生きる」。そのことを結に教えたのは、歩自身だ。それに詩は歩ひとりではなく、みんなで受け入れ、育てていく。米田家が糸島や神戸の人々にそうしてきてもらったように。歩と孝雄(緒形直人)、愛子(麻生久美子)と佳代(宮崎美子)のように、寄り添い、支え合う関係性が多く描かれてきた。結や歩たち家族と食卓を囲む詩。大勢で食事をするのが苦手だった詩が、糸島の郷土料理「そうめんちり」を口にし、満面の笑みを浮かべ、瞳を輝かせる。田原詩、渡辺真紀の一人二役を好演した、大島美優は間違いなく今回の『おむすび』で注目された役者のひとりだった。彼女が俳優として飛躍し、また朝ドラという場所に帰ってくるのが楽しみでもある。