宮崎吾朗の監督デビュー作 『ゲド戦記』は父・宮崎駿への挑戦だったのか

『ゲド戦記』は宮崎駿への挑戦だったのか

 映画『ゲド戦記』は、興行成績の好評さと裏腹に、作品そのものに対する評論家やファンの批評が厳しい結果となり、宮崎駿はこれ1作で息子が監督を辞めるだろうと思った。それでも宮崎吾朗は、『ゲド戦記』に続く次の企画を練り始める。だが次々と出した企画はなかなか通らず、3年間もアニメ業界では浮上できない状態だった。そんな時に宮崎駿が『コクリコ坂から』(2011年)の草案を提出し、父が脚本、息子が監督という形で2本目の長編映画の監督作を送りだせた。それでも『コクリコ坂から』の制作中に、宮崎駿は息子の仕事ぶりについて「吾朗は演出に向いていない。辞めた方がいいんですよ。やりたいのと、やれるのとでは違う」と厳しく評している。

 これ1作かぎり……そう言って『ゲド戦記』の監督に就任した宮崎吾朗が、映画公開後も監督業を辞めることなく、現在までアニメ業界に身を置いているのはなぜだろうか。当時の心境を本人は「ここで(次の作品を)やらないと、前にも後ろにも進めないと思った」と語っている。それがデビュー作の酷評から来た奮起の現れなのかは、本人のみぞ知ることだが。

 かつて宮崎駿が原案、脚本、原画を担当した映画『パンダコパンダ』(1972年)は、まだ幼かった我が子を喜ばせようと作ったものだという。アニメーターとして多忙になり、留守がちになった父親の姿を追い、やがてアニメーターになりたいと思い出した宮崎吾朗が『ゲド戦記』で挑んだのは、乗り越えるべき偉大な山脈となった父への「自分ならアニメをこう作る」というアンサーだったのではないか? 『ゲド戦記』『コクリコ坂から』を通し、時に息子に辛辣な言葉を浴びせながらも見捨てることなく、むしろ要所要所でスランプを突破するためのヒントを与えてきた父・宮崎駿もまた、自分を追いかけてくる息子を無視できないのだろう。そんな宮崎親子の確執、愛憎を念頭に改めて『ゲド戦記』を観れば、今まで気づかなかった視聴ポイントが見えてくるかも知れない。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■放送情報
『ゲド戦記』
日本テレビ系にて、4月9日(金)21:00~23:19放送
監督:宮崎吾朗
脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子
原作:アーシュラ・K.ル=グウィン・『ゲド戦記』
原案:宮崎駿・著『シュナの旅』
音楽:寺嶋民哉 
主題歌:手嶌葵「時の歌」
作画演出:山下明彦
作画監督:稲村武志
作画監督補:二木真希子、米林宏昌、山形厚史
美術監督:武重洋二
声の出演:岡田准一、手嶌葵、田中裕子、香川照之、風吹ジュン、菅原文太ほか
(c) 2006 Studio Ghibli・NDHDMT
金曜ロードショー公式サイト:https://kinro.ntv.co.jp/lineup/20210409
金曜ロードショー公式Twitter:https://twitter.com/kinro_ntv

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