『ハウルの動く城』は何度観ても色褪せない 木村拓哉、倍賞千恵子の声芝居にも注目

『ハウルの動く城』は何度観ても色褪せない

 『ハウルの動く城』(2004年)は、スタジオジブリ制作による13本目の長編映画で、ダイアナ・ウィン・ジョーンズが書いた海外のファンタジー小説『魔法使いハウルと火の悪魔』を原作としている。本作以前に宮崎駿が手がけた監督作品『紅の豚』(1992年)、『もののけ姫』(1997年)、そして『千と千尋の神隠し』(2001年)などは、いずれも漫画や小説の原作が存在しないオリジナルアニメであったが、『魔女の宅急便』(1989年)以来、実に15年ぶりに原作付きのアニメ映画を作ったことになる。とはいうものの、『ハウルの動く城』は原作小説の基本設定はほぼ同じまま、細部をかなり脚色して宮崎のエンタメ性が強く打ち出されている。

 一例を挙げると、ヒロインのソフィーに呪いをかける荒れ地の魔女の扱い方が、アニメ映画と原作小説では大きく異なるのだ。映画の途中で魔法学校の校長マダム・サリマンに魔力を奪われた荒れ地の魔女は、外見も精神性もすっかりヨボヨボの老婆と化して、ヒロインのソフィーから「おばあちゃん」と呼ばれるようになる。老婆化した荒れ地の魔女は、これを境に最後まで大きな問題を起こすことなく温厚に過ごすのだが、原作では悪魔アンゴリアンに操られている悪役で、物語最後までその悪役の立ち位置が変わることはない。映画前半では巨漢で高慢な悪役として登場し、後半は性格の優しいお婆ちゃんキャラに変貌するギャップが本作品の面白さに大いに貢献しているのを考えると、荒れ地の魔女の脚色ぶりは成功していると言えよう。

 ほかにも細部の変更点では、原作に登場するサリマンという名のキャラは、王の命令を受けて荒れ地の魔女の退治に出かけたまま行方不明となった男性だが、映画ではプラチナブロンドの髪で気品ある貴婦人然とした女性になり、劇中の役割も変わっている。

 また、ハウルの弟子として城で働いている少年マルクルは、原作の15歳という年齢設定をグッと下げて小学生ぐらいの男の子に変えており、ソフィーとのやりとりで子どもらしい可愛らしさが上手く描かれている。他にも映画後半で描かれる戦争のシーンはアニメのオリジナル設定だったりと、面白さを引き上げるための策が幾重にも張り巡らされていて、原作小説を読んでから映画を観ると、改めて宮崎の達者な作家性に感服するアニメと言える。

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