『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』のテーマは「自立と旅立ち」 ドラゴンの存在を信じさせる仕掛けとは
「自立と旅立ち」、そして「ドラゴンはきっといる」
本作は人口過密問題に直面したヒックが、ドラゴンたちと共に新たな棲み家を求めて引っ越しするストーリーで、伝えたいテーマは「自立と旅立ち」です。そのテーマは映画を見ればひしひしと伝わってくるので、あえてここで掘り下げる必要はないでしょう。それよりも私が嬉しかったのは、40歳近くにもなって「この世界のどこかにドラゴンはきっといるのだ」と思わせてくれたことでした。
本作のラストで、ヒックとトゥースはそれぞれの道を歩むことになります。しかし永遠の別れではなく、いい距離感で関係を保っているのです。これは「自立の先に訪れる幸せ」を描いたシーンですが、私には「私がドラゴンと暮らしていないように、ヒックもドラゴンと暮らしていない」という親近感を持たせるシーンでもありました。ヒックというキャラクターが、自分と共通点のない空想のキャラクターから、共通点のある地に足ついたキャラクターになったことで、大空の彼方に消えていったドラゴンたちの姿がやけにリアルに感じたのです。これまで実写で人と共演した数々のリアルなVFXドラゴンを見ても、ドラゴンの存在を信じたことのなかったにもかかわらず、です。
それは、ヒックたちの設定をヴァイキングにしたからかもしれません。ファンタジーの中にリアリティを持たせたいなら、ファンタジー設定一辺倒ではなく、実際にあったことを織り交ぜることが重要です。実在する場所を舞台にしたり、歴史をテーマに加えてみたり、実在の人物を登場人物の一人に入れると真実味が増します。
今回の場合、ヴァイキングという実際に存在するミステリアスな武装船団が主役です。彼らは中世ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えたにもかかわらず、関係が深い国以外では、御伽噺のように語られる程度です。ヴァイキングをテーマにした作品も多くありません。わからない部分が多い人たちだからこそ、「もしかしたら本当に自分たちの知らない体験をしているのかも」と想像を膨らます手助けをしてくれます。少なくとも私には効果抜群で、ドラゴンを信じさせてくれました。
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』は、トリロジーの終焉を飾るにふさわしい完璧なエンディングを飾り、ドリームワークス・アニメーションはシリーズものが苦手という印象を拭い去ることに成功しました。力を入れている炎の表現と、無数のオブジェクトとドラゴン、ヴァイキングの仲間たちが集う食堂シーンは圧巻の一言。しかし、敢えて技術に注目して褒める必要がないほど、ストーリーが素晴らしい仕上がりでした。個々の人生を歩むヒックとトゥースを見送った後、劇場を後にする私の足取りは来る時よりも力強くなっている気がしました。もしかしたら、私の中の「誰かに頼りたい気持ち」や「支えてほしい気持ち」を手放す勇気をもらえたからかもしれません。
■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter
■公開情報
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
全国公開中
声の出演:田谷隼、寿美菜子、深見梨加、田中正彦、松重豊
製作総指揮:ディーン・デュボア、クリス・サンダース
製作:ボニー・アーノルド
監督&脚本:ディーン・デュボア
原作:『ヒックとドラゴン』クレシッダ・コーウェル著(小峰書店刊)
配給:東宝東和、ギャガ
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