アニー賞ノミネートから考える、2019年アニメのトレンド 『天気の子』ら日本勢受賞の可能性は?

アニー賞から考える2019年アニメトレンド

 過日、アニメーション界のアカデミー賞とも言われるアニー賞の2019年ノミネートラインナップが発表された。

 長編アニメーション作品賞候補には、『アナと雪の女王2』や『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』、『トイ・ストーリー4』、スタジオライカの『Missing Link』など米国メジャースタジオのビッグタイトルが並ぶ。一方で、インデペンデント長編アニメーション作品賞には日本アニメの3本、『天気の子』『若おかみは小学生!』『プロメア』などがノミネートされている。

『トイ・ストーリー4』(c)2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 本賞で作品賞を受賞した作品は、これまでも高い確率でアカデミー長編アニメーション賞も受賞しており、アカデミー賞レースの前哨戦としても重要と位置づけられている。

 メインの作品賞候補に関しては、例年通りハリウッドメジャーの強さが目立つが、全部門のノミネートを見渡してみると、今年は顕著な変化が起きていることに気がつく。それはNetflixの躍進だ。総ノミネート数でディズニーを超えており、大変大きな勢力となっていることが伺える。

 本稿では、今年のアニー賞ノミネートから見る2019年のアニメーションのトレンドと日本勢の可能性について論じてみたい。

アニー賞の特徴と選考基準

 アニー賞とは、国際アニメーション映画協会(ASIFA)が主催するアニメーションとそのスタッフのための賞だ。国際アニメーション映画協会は、世界各地に支部を持っており、アヌシーや広島のアニメーション映画祭など世界の映画祭とも関わりが深い組織だ。アニー賞を選考しているのは、その支部の一つ、ASIFAハリウッドだ。アメリカにはハリウッドのほか、中央、東、アトランタと4つの支部があるのだが、ハリウッド支部はその中でも最大手の存在だ。ボードメンバー(参考:https://www.asifa-hollywood.org/about-us/board-of-directors/)には当然だが、ハリウッドメジャースタジオに関わりの深い人物が多く顔を揃えている。アメリカのアカデミー賞も元々、アメリカ映画人によるアメリカ映画人のための映画賞だが、アニー賞もまたアメリカのアニメーション業界人によるアメリカのアニメーション業界の賞という側面が強い。アヌシーなどの国際映画祭とは性質が異なる。

 選考資格は、その年にアメリカで公開、もしくは放送、配信開始された作品が対象となっている。日本では昨年の公開だった『若おかみは小学生!』がノミネートしているのは、アメリカでは今年劇場公開されたからだ。

『若おかみは小学生!』(c)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 アニー賞の長編作品賞は、メインの作品賞とインデペンデント長編部門が設けられている。インデペンデント部門は封切り時のスクリーン数が1000以下の作品を対象とし(参考:https://annieawards.org/rules-and-categories/production-categories/best-indie-feature)、通常の長編部門はそれ以上の規模で公開された作品を対象としている。日本勢の作品が軒並みインデペンデント部門に入れられているのはこの基準のためだ。アメリカにおいて、1000スクリーン以上の規模で公開される外国映画は極めて少ない。したがって、事実上、メインの長編部門はハリウッドメジャーのための部門、それ以外の作品がインデペンデント部門という形となっている。インデペンデント部門は2015年に新設されたのだが、これによって外国の秀作が日の目を見やすくなった一方、ハリウッドメジャー以外の作品が長編部門に挑戦することが難しくなっている。2014年以前は、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』やイギリスのアードマンスタジオのクレイアニメーション『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』が作品賞を受賞したこともあるが、2015年以降、メイン長編部門の全ノミネート作品がハリウッドメジャーの作品となっている。

Netflix映画『失くした体』Netflixにて独占配信中

 今年から、この2つの長編作品部門にネット配信作品にもノミネート資格が与えられた。その変化はメイン長編部門に『クロース』、インデペンデント部門に『失くした体』のノミネートという形で早速表れている。ネット配信作品はスクリーン数で分けることができないので、エントリーする側がどちらに挑戦するか決めるという形になっている(一応、主催側が移動させる権限は持っている)。フランス製のアーティスティックな『失くした体』がインデペンデント部門で、バジェットの大きな『クロース』をメイン長編部門に配したのは、近年のアニー賞の傾向を如実に反映していると言える。

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