『グリーンブック』が作品賞受賞! 第91回アカデミー賞は“変化へのためらい”を象徴する結果に?

アカデミー賞、変化へのためらいを象徴?

 「主役不在」や「大混戦」といった触れ込みがある年に限って、蓋を開けてみれば案外収まるところに収まったという結果になるのがアカデミー賞の常だ。ファンタジー映画という壁を超えた昨年の『シェイプ・オブ・ウォーター』や、監督賞候補漏れというまさかの事態を凌ぎ切った第85回の『アルゴ』。何らかのハンデを持った本命作が危なげなく受賞を遂げる。しかしながら、今年の第91回では本命作として注目されていた『ROMA/ローマ』が、逆転候補の筆頭だった『グリーンブック』に惜敗。一筋縄ではいかない「大混戦」を象徴する結果にまとまり、その点では『スポットライト 世紀のスクープ』が制した第88回のときを想起させるものとなった。

『グリーンブック』(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 助演部門が前哨戦通りの堅い決着となり、主演男優賞はノミネート発表の段階から世界中が受賞を期待してやまないスター性の強い俳優が輝き、そして監督賞の結果で世界中の誰もが作品賞は決したと思いきや、最後の最後でサプライズが巻き起こる。このような流れはまるっきり3年前と同じだ。改めて第91回の流れを振り返ってみると、いかに2018年という年が“激動”の年だったかがよくわかることだろう。作品賞候補の8作品を見渡しただけで、ハリウッドが変化を受け入れるのか、それとも変化しないのか。大きな岐路に立たされていると見受けられたのだ。

 そんな中で授賞式がはじまると、ほとんどの部門が通常のアカデミー賞通り、“収まるところ”へと向かっていく。最多ノミネートという花を持たせてもらった『女王陛下のお気に入り』が、有力視されていた部門で相次いで『ブラックパンサー』に連敗してバランスが保たれると、“音”に関する部門では『ボヘミアン・ラプソディ』が強さを見せる。長編アニメーション賞でディズニー作品が敗れるものの、その代わりのように短編アニメーション賞が与えられて丸く収められる。そして短編部門では“女性の時代”が強く掲げられる結果に。脚色賞では、前哨戦で敗れながらも『ブラック・クランズマン』が逆転勝利を飾る。アカデミー賞で毎年のように取りざたされる人種問題に常に警鐘を鳴らし続けてきたスパイク・リーを讃えるかのようなこの受賞は、ある意味ではひとつの“落とし所”といった意味合いが強く感じられた。そして続けざまに発表されたオリジナル脚本賞でも、『グリーンブック』が受賞することで作品自体の評価の高さと、20年前にセクハラ問題を起こしたことが明るみになって監督賞からノミネート漏れする事態に陥ったピーター・ファレリーへの“落とし所”が与えられたように映った。必然的にこの時点で『ROMA/ローマ』が監督賞と作品賞を同時受賞し、言語や製作国に囚われない映画の多様性と、配信という現代の映画のあり方をアカデミー賞が認めることへの期待感が一気に高まったことは言うまでもない。

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 しかも作品賞が発表されるまでに起きたサプライズらしいサプライズといえば、主演女優賞で無冠の女王グレン・クローズがオリヴィア・コールマンに逆転負けを喫したということぐらいか。それでも最も競っていた部門である点や、クローズの対象作が他の部門で候補にあがっていない点、クローズとアカデミー賞の関係性を演出する盛り上げの効果としては、この結果も充分に納得できるものだといえよう。そして授賞式が佳境に突入し、監督賞のプレゼンターとして昨年の受賞者ギレルモ・デル・トロが登場した時点で、もう盟友キュアロ
ンの受賞は約束されたようなものだった。

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