『グリーンブック』が作品賞受賞! 第91回アカデミー賞は“変化へのためらい”を象徴する結果に?
しかし大きなサプライズはそのあとに待っていた。ジュリア・ロバーツがプレゼンターを務めた作品賞で、タイトルが読み上げられたのは脚本賞と助演男優賞を獲得していた『グリーンブック』。もっとも、作品賞の結果と直結する(これまで30年の歴史で21回が合致するほど)アメリカ製作者組合賞で作品賞を受賞し、すでに『ROMA/ローマ』や『ボヘミアン・ラプソディ』などのライバルとの決着が付いていただけに、順当な結果という見方もできないわけではない。
オスカーへの最初の切符といわれている、秋のトロント国際映画祭で観客賞を受賞した同作。この賞に輝いた作品は近10年で9作品がアカデミー賞作品賞に候補入り(残る1作品は考慮資格対象外だったので、100%といってもいい)。実際に作品賞に輝いたのは『それでも夜は明ける』以来5年ぶりのことだ。さらに賞レースの幕開けを告げるナショナル・ボード・オブ・レビューにゴールデン・グローブ賞作品賞(ミュージカル/コメディ部門)、前述の製作者組合賞と、作品賞を獲るには充分すぎる下準備が整っていたのだ。
しかしながら、人種差別を題材にした作品でありながらもその描き方が白人目線であると批判の声が相次いだこと。さらに主演のヴィゴ・モーテンセンが上映イベントで差別用語を口にして非難を浴び、脚本家であり劇中の主人公のモデルとなった人物の実の息子ニック・ヴァレロンガが過去にTwitterで差別発言をしていたこと、そして追い討ちをかけるように前述のファレリーの一件。いずれも真摯に謝罪してことなきを得たとはいえ、1年を代表する作品に選ばれるには少々ふさわしくないケチがついてしまっていたことは否めない。
保守的なイメージの強いアカデミー賞にとって、これらの件はマイナス要因として働くのは当然のことだ。それでも他の作品を選ぶに足るだけの、革新的な“変化”への躊躇いがまだアカデミー会員の中に強くあったのだろう。配信映画で外国語映画、アメコミ映画、低評価で製作トラブルがあったポピュラー作品、リメイク映画、題材はオスカー向きでもクセの強い作品たち。しかもそういった中で、数年前から導入されたノミネート作品に順位をつけて最下位に選ばれた票が少なかった作品が残っていくという消極的な投票システムの功罪がまんまと露呈した結果になったわけだ。
そうなれば“とりあえず万人受けしそうなフィールグッドムービー”が最後まで勝ち残って残るのも仕方あるまい。そのような結果に最も嫌悪感を示していたのは、同じく人種差別を題材にしていた『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督のようで、「いつも誰かが誰かを乗せて運転していると俺は負ける」と自身が初ノミネートされた年に受賞した『ドライビングMissデイジー』を引き合いに出してコメント。偶然にも『ドライビングMissデイジー』も人種問題を扱って、人種を超えた友情がドライブによって紡がれていく様が描かれているという点で『グリーンブック』と共通するものがあったわけだが、いずれにしてもアカデミー賞の持つ気質や価値観というものが30年前と何ら変わっていないということが証明されてしまったようだ。
少なくとも『ROMA/ローマ』に期待されていた、配信作品がアカデミー賞で頂点に輝くという可能性は、これからまだまだある。マーティン・スコセッシ監督の最新作『Irish Man(原題)』をはじめ、アン・ハサウェイとベン・アフレック、ウィレム・デフォー共演の『The Last Thing He Wanted(原題)』などが来年の賞レース参戦を噂されているのだ。今年は「配信」「外国語」「白黒」という幾重にも重なった高い壁があったわけだが、来年は純然と「配信」か「劇場公開」かという価値基準の中で、ひとつの明確な答えが見出されることになるだろう。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『グリーンブック』
2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
提供:ギャガ、カルチャア・パブリッシャーズ
配給:ギャガ
原題:Green Book/2018年/アメリカ/130分/字幕翻訳:戸田奈津子
(c)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:gaga.ne.jp/greenbook
『ブラック・クランズマン』
3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督・脚本:スパイク・リー
製作:スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか
ユニバーサル映画
配給:パルコ
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/原題:BlacKkKlansman/映倫:G指定
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■配信情報
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』
独占配信中
https://www.netflix.com/roma