ヒロ・ムライ×ドナルド・グローヴァー、“アメリカの部外者”たちの直感的・本能的作風を解説

 ヒロ・ムライにとって、第61回グラミー賞は初めて得た全米最高の名誉というわけではなかった。2017年時点で、彼が監督したドナルド・グローヴァー原案・主演ドラマ『アトランタ』がゴールデングローブ賞作品賞を獲得している。そして2019年、チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」によってグラミー賞ミュージック・ビデオ部門を授与した流れなのだが、ここで挙がったガンビーノとは、前述したドナルド・グローヴァーがラッパーとして活動する際の名称を指す。つまり、ムライ監督は、グローヴァーとのコンビによって全米最高峰の称号を2つも手にしたのである。まさに新世代を代表するクリエイターとして君臨することとなった2人の革命、そして共通点とは何なのだろうか。

 作曲家である村井邦彦の息子として9歳ごろ東京からロサンゼルスへ渡ったヒロ・ムライは、宮崎駿とディズニーの作品をきっかけに映画の道を志すようになる。コーエン兄弟や北野武に傾倒した高校時代を経て南カリフォルニア大学映画学部に進学、以降はデヴィッド・ゲッタやフライング・ロータスなど、数々の著名ミュージシャンのMVを撮り始める。日本人と思わしきサラリーマンが羽目をはずすQueens Of The Stone Age「Smooth Sailing」や映画『フォレスト・ガンプ』を模したフランク・オーシャンのグラミー賞パフォーマンス映像もムライの担当だ。

Queens Of The Stone Age - Smooth Sailing

 ムライの作風は、シュールレアリズム、ドリーム・ロジック、そして「日常の中の奇妙さ」「瞬間的超現実」と評されることが多い。ムライ自身は、デヴィッド・リンチや村上春樹の影響を明かしながら「不条理の美学や抽象化が好き」、「全体像把握のために人々が身を乗り出さなければいけないものを提示したい」という旨を語っている。代表例としては、ガンビーノとの「Telegraph Ave」が挙げられる。男女のデートを映すラブロマンスが最後の最後で映像ジャンルごと激変してしまう2013年の話題作だ。一般的なビデオではせめて中盤に配置されるであろう転換がラストに置かれているからこそ、観客は置き去りにされた感覚を覚えて意味を探ってしまう。なんとも悪夢的な仕上がりだ。

Childish Gambino - Telegraph Ave ("Oakland" By Lloyd)

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