ヒロ・ムライ×ドナルド・グローヴァー、“アメリカの部外者”たちの直感的・本能的作風を解説

 「『This Is America』も『アトランタ:略奪の季節』も、世界で起こっていることへの反応だ」 ーーヒロ・ムライ/The New York Times

チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」

 「これがアメリカだ」とする警告を伴った宣言、ジム・クロウのようなポーズで黒人男性を射殺するガンビーノ、にこやかでどこか歪な黒人たちの踊り、コーラス隊への銃乱射、大量生産と人種間経済格差を思わせるホワイトな工場、聖書の死の象徴とされる馬、映画『ゲット・アウト』のような暗闇の中での逃走……2018年に突如リリースされた「This Is America」は、まるでアメリカの悪夢だった。明らかに現実にはびこる人種や銃の問題が意識されているものの、テーマやメッセージは明白にされない。その衝撃に混乱したネットユーザーたちは、真意を求めて考察を繰り広げていった。「This Is America」はグラミー賞主要2部門を獲得した初のHIPHOP作品だが、アワードを占拠するよりも前にインターネットを征服していたと言える。 

Childish Gambino - This Is America (Official Video)

 多くの人々が論理的な意義を見出そうとした「This Is America」だが、監督を務めたムライによると、意外にも直感を重視するプロセスで製作された作品のようだ。本作について「できる限り自分たちの感情に正直になったからこそ人々に届いた」と語るムライは、元々、自身とグローヴァーの作風について語る際「直感/本能的」といったワードを多用している。彼らのクリエーションがロジカルであることよりフィーリングを重視するものだからこそ、心を揺り動かされた人々はその意味を追い求めてしまうのかもしれない。

「人々に対して説法や翻訳をしようとするとドツボにハマる。ヒロが信じてるものは翻訳じゃない。彼はオーディエンスの知性を信奉しているんだ」ーードナルド・グローヴァー/GQ

 グローヴァーとムライが掲げる目標、それは、大衆が物語に抱く関心のスパンが短縮したデジタル時代において人々を真に驚かせることだという。ともあれば、SNSフィードを制覇してグラミーに輝いた「This Is America」は、2人の代表作であると同時に、表現者としての志が結実した記念碑的映像と言えるだろう。ちなみに、ムライはオンラインの考察合戦に大きな喜びを示している。作品に込めつづけた「この世界には目に見えているもの以上のものがある」というメッセージが人々に伝わった実感が得られるためだという。まさしく、グローヴァーが言うところの「オーディエンスの知性を信じる」クリエイターではなかろうか。

 ヒロ・ムライとドナルド・グローヴァーの時代はまだまだ続いていく。2019年には『アトランタ』シーズン延長のみならず、あのリアーナをキャストに迎えたムライ監督・グローヴァー主演映画『Guava Island』の予告編も発表された。アメリカの「部外者」として心を通わせた2人は、まだまだ限界なき表現の力を見せつけ、我々を驚かしてくれるだろう。

参考

https://deadline.com/2018/06/atlanta-this-is-america-hiro-murai-barry-director-interview-1202408845/
https://www.gq.com/story/atlanta-robbin-season-hiro-murai-interview
https://www.indiewire.com/features/general/atlanta-hiro-murai-fx-donald-glover-1201726188/
https://www.indiewire.com/awards/industry/atlanta-legion-hiro-murai-fx-director-1201835082/
https://www.marketplace.org/2018/06/15/life/conversation-hiro-murai-guy-behind-childish-gambino-s-this-is-america/
https://www.nytimes.com/2018/05/10/arts/hiro-murai-atlanta-finale-this-is-america-interview.html
https://www.nytimes.com/2018/05/22/magazine/hiro-murai-doesnt-want-to-get-on-a-soapbox.html

■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。

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