『みかづき』森絵都の原作を思い切って改変 ダメで愛らしい高橋一生×情熱的な永作博美が中心に

 高橋一生、永作博美主演のNHK土曜ドラマ『みかづき』がスタートした。原作は森絵都の同名小説。昭和から平成の時代にかけて、三世代にわたり学習塾に情熱を傾ける人たちの姿を描く感動作だ。文庫本にして600ページを超える大著を、どのように全5回のドラマにするか注目していたが、ドラマの制作陣はこちらの想像を超えた改変を行ってきた。しかも、それが驚くほど面白い。一体何が起こったのか?

「みかづき」森絵都(集英社)

 ドラマは、原作では終章(とはいえ100ページ以上ある)の主人公である上田一郎(工藤阿須加)の現代パートから始まる。うだつのあがらない彼が、祖父・大島吾郎(高橋一生)が書いた祖母・千明(永作博美)についての回想録を読む形で進む。その過程で、一郎自身の物語も語られていくのだろう。それにしても、真っ白なカツラを被った高橋が見守る中、同じような老けメイクで危篤状態の永作がカッと目を見開いて工藤を一喝するシーンは、陽気なBGMと相まってコントのような出来栄えだった。このシーンを頭に持ってきたのは、「今からみなさんに見ていただくのは、こういうドラマですよ」という宣言だろう。第1話ではそこから昭和の時代にさかのぼり、吾郎と千明の出会いから「八千代塾」の開塾までの様子がテンポよく描かれた。

 とにかく驚いたのは、原作が持っていた重厚さ、静謐さをかなぐり捨て、コミカルでハイテンションなドラマに生まれ変わっていたことだ。予告を見た時点である程度は予測していたが、これほどまでとは思わなかった。大筋は原作と一緒なのだが、まったく同じセリフがほとんどないという徹底ぶりである。

 原作の世界にどっぷり浸った身として、たしかに最初は戸惑いがあったのだが、だんだんドラマの持っているスピード感とテンションに巻き込まれていく形で楽しめるようになった。最大の勝因は、高橋一生と永作博美の魅力、愛らしさだ。

 実力も華もある二人を主人公にキャスティングできた時点でこのドラマは成功を約束されたようなものだが、二人を原作のトーンに押し込めるのではなく、二人がもっとも魅力を発揮できるキャラクターを主役にして、そこからドラマ全体のトーンを作り変えていったのではないだろうか。すさまじい荒療治だ。脚本を担当したのは、『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)などで知られる水橋文美江、演出は『精霊の守り人』(NHK)などを手がけた片岡敬司ら。

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